募金券でつくれる未来

社員との対談

第25回 ポラリスプロジェクトジャパン×良品計画 「人身取引」問題って、日本にもあるの? 第25回 ポラリスプロジェクトジャパン×良品計画 「人身取引」問題って、日本にもあるの?

日本の状況はふつうじゃない!?

藤原さん:ほかの先進国と比べると、法整備の遅れが顕著で、国連から繰り返し勧告を受けているほどです。

窪:なんて不名誉な・・・。

藤原さん:法律をつくるのは民意ですから、結局は国民である私たちの意識のところに戻ってきてしまいます。「こんなのおかしい!」「問題だ!なんとかしないと!」と思う人が増えれば、規制されるようになるはずで、私たちもそのために頑張っているのですが、なかなか・・・。

窪:藤原さんはアメリカでこの活動に携わって、その後日本に戻って一から始めたのですよね?アメリカとはやはり異なりますか?

藤原さん:残念ながら、異なりますね。アメリカでは問題提起をして間もなく、どんどん賛同者が増えて、政府も動いて、活動が瞬く間に大きくなりました。政治の動きや、宗教や市民社会の強さなど、米国には好材料がそろっていたこともあって、当然、取り組みも進みました。日本でも!と意気込んで始めたのですが、理解を得ることの難しさは、これまで肌で感じてきました。共感してくれる人たちももちろん中にはいますが、それでも、言語道断であるはずの子どもの性を商品にすることに関してだけでも、ほかの先進国から見ると考えられないレベルでまかり通っているのが現状です。

鈴木:児童ポルノの問題とか、ときどきニュースになっていますね。これも人身取引と関連があるのでしょうか。

藤原さん:一種の人身取引だと言えます。子どもの性が商業化され、本人の意思に関わらず搾取されるのですから。その陰には本当に目を覆いたくなる事実があります。犯罪として摘発されるものも氷山の一角なのですが、犯罪とはされず容認されているものを含めて、本来なら規制されるべきものがたくさんあると考えています。

窪:そう言われれば、確かに思い当る気がします。なんか、日本全体が悪い意味で性の売り買いとか児童ポルノとかに寛容というか。私自身、なんとなく日常で多く目にすることに馴れすぎて、普通にあるものだとして無意識に見過ごしていたかもしれないです。

藤原さん:よく、外国人が日本に来て驚くんですよ。繁華街に行けば、ファーストフード店があって、カフェがあって、カラオケがあってその横に普通に風俗店がある。そのうえ、コンビニではどぎつい成人誌が一般の雑誌やマンガと一緒に売場にふつうに並んでいたり、電車の中吊り広告でも10代の女の子がビキニ姿で笑っている光景も、今では普通になっています。日本では、児童ポルノだって所持だけなら罪にならないということも、外国との大きな違いでもあります。

馴らされている側の罪

鈴木:それって、日本だけなのでしょうか。

藤原さん:知る限り、日本が特異であるのは確かです。現在の日本では、ランドセルを背負った女の子が、下着同然のような格好で遊んでいるようなDVDが、アダルト商品ではなく一般のアート商品として、後ろ暗さも感じさせないくらい簡単にネットで買えて、事実、性の対象としてたくさんの人が買っています。小さな男の子を被写体にした商品もあります。でも、それを外国に持ち込もうとすると、まず税関でアウトですけどね。

窪:今のお話を聞いて、自分自身も現在の環境に馴らされてしまっていることがわかりました。

鈴木:本当に。言われてみれば、世の中に性犯罪に繋がってしまいそうな情報が氾濫していることに馴らされてしまっていますね。グラビアとかアイドルとか、やたらと「若ければ若いほどいい」みたいな傾向も強くなってきた気もします。

窪:確かに。私も「若いとやっぱりかわいいね。肌がきれいだね」なんて、言っていたかもしれません。馴れですね。

藤原さん:なんでもかんでもダメだというわけではありませんが、こうして、私たちが馴らされていっていることが、売春や児童ポルノのまん延に一役買っていることは否めません。徐々にエスカレートするものには問題意識を持ちづらくなりますし、知りたくないから直視しないということもあると思います。でも、いくら大人が見ないふりをして問題を放置したせいで、女子中高生ともなれば自分たちの体に商品価値があると思ってしまう世の中なんです。不健全だし、やりきれない思いがしますが、痴漢、盗撮、援助交際と、これだけさらされていれば当たり前ですよね。

鈴木:その通りですね。本来、存在を許してはいけないものでも、なんとなく情報が日常に浸透し過ぎていて、感覚が麻痺しているのか許容してしまっている気がします。反省しないと。今は商業化された性が、デジタルで一瞬で広がってしまいますから、事態はより深刻ですよね。

駆け込み寺をつくりたい

藤原さん:私たちも活動していて、本当に悔しいのですが、配信されてしまうと回収するすべがないんですよね。児童ポルノなどは性的虐待の記録でしかなく、子どもの一生が台無しにされてしまいかねない、暴力的で重い犯罪なはずなのに。

窪:大人に性を利用された上に、大人になったら偏見にさらされるかもしれない・・・。

藤原さん:児童ポルノを含め、人身取引の被害者は、なかなか悪いスパイラルから抜け出せないのが現状です。自尊心を奪われきっていて、自分を大切にできないから、売春などから一度レスキューしてもまた繰り返したりします。精神疾患を抱えている場合も多いですし、自立が本当に困難なんです。ですから、子どもたちは、なんとか少しでも早いうちに救い出したいです。

鈴木:仮に自力で抜け出してきたとして、被害者たちはどこに行けば良いのでしょうか。

藤原さん:そこが課題なんです。ですから、安心して、良い大人たちのフォローを受けられるよう、シェルター(駆け込み寺)をつくりたいと考えています。そこで、少しずつでも人への信頼を取り戻し、自尊心を取り戻し、そして人生を取り戻してほしい。私たちの力は大きくありませんが、何人かに対してでも人生を取り戻すお手伝いができれば、それは決して小さなことではないと思うのです。こんな活動は、なくなることが一番良いのですが、今の目標は駆け込み寺ですね。

対談を終えて

鈴木:無知だった自分を恥ずかしいと感じることが多かったです。まず、人身取引=奴隷と考え、まったく縁遠い話だと思っていたことには、少し考えればわかることだったのに、気づかなかった自分にショックを受けました。それから、日本と海外との取り組みの差。また、多くの情報に触れて、馴らされて、結果的に容認していることが、大人として恥ずかしいことだったと気づきました。マーケットがあって、取り締まりがない、構造的なつながりの中で起きている問題で、個人的なものではないこともよくわかりました。

窪:私がいるのとは違う世界で起きていることだと思っていたけれど、実はすごく身近な問題だったと認識を改めました。自分が高校生だったころを思い出しても、確かに、周りの情報からも自分たちの存在に商業的価値があることはなんとなくわかっていました。考えてみれば、それだってどこか歪んでいます。今の日本が、「被害者」をたくさん生み出し続けているのだとしたら、その人たちの人生にやり直しがきかないのは、本当に理不尽だと思います。駆け込み寺のような受け皿ができたらいいな、と心から思いました。

※役職等は対談当時のものです

※ポラリスプロジェクトジャパンは2014年に、人身取引被害者サポートセンター ライトハウスに改称しています。

ポラリスプロジェクトは、2013年2月25日から5月23日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
303人の方から合計68,100円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。

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