募金券でつくれる未来

社員との対談

第35回 棚田ネットワーク×良品計画 思いをつなげて、棚田を守る。 第35回 棚田ネットワーク×良品計画 思いをつなげて、棚田を守る。

都市と棚田の「つながり」は、経済性のみで測れない

雜賀:それでも、棚田を保全するためにはやはり、所有者である農家さんが最も汗を流さないといけないですものね。そうした方々にはどういうお話をされていますか。

高野さん:私たちの立場で、「棚田を維持し続けてください」とは言えません。特に、高度経済成長の時代に生きた、昭和一桁生まれのお年寄りは、自分の子どもたちには「ここを出なさい。こんなところにいてもしょうがない」と言ってきた世代です。それに従った子どもたちの多くは都市に出て戻ってこなかった。ですから、高齢化が進み、後継者もいない地域がほとんどです。今は逆にお孫さん世代が戻ってきたりという動きもありますが、仕事として成り立たないことには、そこに居続けることもできないですよね。

雜賀:そうですよね。「棚田はきれいだから守ってください」などと軽々しく言えることではないですよね。

高野さん:はい、美しい風景を求めるだけではダメなんです。例えば、小さすぎて農作物をつくりにくい棚田では、田んぼ三枚を一枚にまとめたりするなど、農家さんにとって続けやすい形をつくっていく必要もあると思っています。

前:実際に、棚田の活性化につながった成功事例はありますか。

高野さん:岐阜県恵那市には、見事な棚田があります。地元の人同士が課題について話し合い、一切手をつけずに保全する田んぼと、つくりやすいよう農道を付けたり、何枚かを一枚にまとめる田んぼ、大型機械が入るようにする田んぼ、田んぼではなくて果樹などに変えるところ、などと計画的に棚田を整理しました。地域の人たちによって考え抜かれた成功事例だと思います。守っていくための方法は一つではないんですね。

前:素晴らしいですね。そのように地域で話し合うことは増えてきているのでしょうか。

高野さん:そうですね。表に出ているところもずいぶんありますし、行政でも町おこしのテーマとして、棚田の保全を行うところが出てきました。これからは、過疎化をどうするか、そして、その地域で暮らしたいと思う方をどうつないでいくかが、政治的にも課題になってくると思います。総務省の政策である「地域おこし協力隊」などといった試みもあります。都会に住む若者が三年間農村で暮らし、地域のお手伝いをするといったものです。三年経った後でも、その地域に残る人が半分くらいいるとか。こういう場合も、応募して入ってきた人たちをどう受け入れていくかが大事になってくると思います。

前:棚田そのものもですが、棚田があるような地域の持つ価値をより多くの人たちが認識して、大切にしていこうという気運が高まれば素敵ですね。

高野さん:本当にそうです。みんなに「棚田は素晴らしい、お米も美味しい。こういう地域を守りたい」と思われることで、地域の輝きは増してきます。芸能人だって、売れると輝いてきますよね、似たところがあるんです(笑)。

体験のなかから、想像力を豊かにしていく

前:棚田のお米は、手をかけ、時間をかけ、愛情をかけてつくられるもの。美しい風景もしかりですし、ストーリーに思いをはせることで、食べる喜びが増しますよね。背景を伝えていくことは大切だなと思います。

高野さん:そう、その通りです。お米だけでなく、古典とか工芸品もそうですよね。やはり人の手で大事につくられてきたものには、違う価値があると思います。これからはTPPで大規模農業などが推進されていくかもしれませんが、日本の田畑が荒れてしまったら、どうしようもないと思うのです。繰り返しになりますが、田んぼや畑は農作物をつくるだけのところではないはずですから。

雜賀:そうですね。昔と比べると、私たちが手にするものの背景について、格段に情報を得やすくなりました。生産者と顔を合わせてのコミュニケーションは難しくても、こうした背景について知ることを、選択の一助にしたいですね。

高野さん:はい。例えば、お米の話題をスマホで見たときに、以前知りえた農家の方について、「あ、あのときの、あの人」と思い出していくように、情報を連鎖させていきたいものですね。人と人とのつながりと、その後ろにあるストーリーを大切にしていきたいと思います。また、体験のなかから、想像力を豊かにしていくのも楽しいですよ。例えば、田んぼには水があることを当たり前にイメージしがちですが、そこに水が流れることは当たり前じゃないんです。

前:・・・というと?

高野さん:私も何度も通って分かったのですが、棚田とは、あの何十枚もの田んぼのなかに同じ数ほどの持ち主がいたり、雪国では毎年冬には水路が崩れてしまったり、なかなか大変なんです。春先には、泥や落ち葉で崩れた水路を掃除するために、ボランティアの人たちが、自腹で農村を訪れる地域もあります。水路だって何キロもの距離があるんですよ。ボランティアの人の数もだんだん増えてきて、地元の人たちがとても喜んでいます。だから今年もお米がつくれるんだと。そういうストーリーを知ると、心も豊かになるような気がしませんか。

対談を終えて

前:このような機会にお話しさせていただかないと、深いところまで分からないのでとても勉強になりました。すごく楽しかったです。私自身、「蛇紋岩米(じゃもんがんまい)」というお米の販売を企画したり、田植えに参加した経験があり、生産の現場への関心もありました。棚田ってきれいだなぁ、ここでできるお米も美味しいんだろうな、と思うことも。とはいえ、見聞きする情報どまりだったところもあったので、これからはその背景やストーリーにもっと思いをいたらせるよう、想像力も身につけたいと思いました。ありがとうございました。

雜賀:父の実家に田んぼがあったり、田植えを体験したことがあったりで、特に最近は、田んぼの存在を意識するようになっていました。今回、あまり知識のなかった棚田についていろいろとお話を伺うなかで、知ることはとても大事だなと改めて思いました。知らなければ見過ごすことも、知ることによって、自分にできることは何だろうと、引き寄せて考えるようになります。そこから、何かにつながっていくんだろうと思います。仕事でも赴く機会があるのですが、ほかのアジアの国にも棚田がありますよね。日本の、棚田ネットワークさんのような取り組みが、ほかの国にもつながっていくといいなと思います。

※役職等は対談当時のものです

棚田ネットワークは、2013年11月25日から2014年2月24日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
82人の方から合計40,000円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。

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