募金券でつくれる未来

社員との対談

第39回 ライフリンク×良品計画 つながることで、命を守る。 第39回 ライフリンク×良品計画 つながることで、命を守る。

募金券 寄付先団体の皆さんの活動を、良品計画の社員との対談を通してお知らせします。第39回は、「つながり」をキーワードに、「生き心地のよい社会」をめざし自殺対策に取り組む、ライフリンクさんにお話をお聞きしました。

遅れる日本の自殺対策

日本では、年間約3万人、一日70人以上の方が自殺で亡くなっています。他の先進国に比べ、突出して高い日本の自殺率。「個人的な問題」と捉えられがちで実態が見えにくいことから、対策に後れをとってきました。自殺を社会の問題として、国全体で総合的な対策に乗り出すきっかけとなった自殺対策基本法が成立してから約8年、自殺を食い止める取り組みは進んでいるのでしょうか。

プロフィール

ライフリンク

ライフリンクは、「つながり」をキーワードに、一人ひとりが自分の立場や役割を超えて社会全体で自殺対策に取り組むことで、「生きる支援」を推進する団体です。2004年に設立し、啓発活動をはじめ、政策提言や、具体的な対策へとつなげるための自殺実態調査などを行っています。

ライフリンク

  • 清水 康之さん

    自殺対策支援センター ライフリンク
    代表

    1997年にNHK入局。自死遺児の取材をきっかけに自殺対策の重要性を認識し、自ら対策に取り組もうと2004年に退局。同年、ライフリンクを設立する。10万人署名運動等を通して「自殺対策基本法」成立に大きく貢献するなど、自殺対策の「つなぎ役」として日々全国を奔走している。

  • 高梨 哲

    良品計画
    総務人事担当 総務課長

    2003年に良品計画入社。生活雑貨部ファニチャー担当課長として家具などの商品開発業務を経て、お客様室お客様担当、販売部九州エリアのエリアマネージャー、店舗開発部での課長を経験。2014年より現職。社内の保守や契約管理、危機管理などの総務・法務業務を担当。

  • 市原 絵美

    良品計画
    業務改革部 店舗サポート課

    2002年に良品計画入社。大阪難波や広島での店舗勤務後、大阪梅田・阿倍野、調布での店長業務を経て、2012年から池袋西武の部門マネージャーとして勤務。2014年より現職。新入社員研修や、社内登用社員研修に携わる。趣味は美味しいものを食べに行くことです!

自殺を日本の社会問題として捉える

自殺対策の必要性を
国会議員らに説明する清水さん
(2013年10月)

市原:今、日本では年間3万人近い方が自殺で亡くなられています。あまりに大きい数字です。ライフリンクさんは、社会問題としての自殺対策の推進を目指されていらっしゃいますが、どういった活動をされているのでしょうか。

清水さん:長らく自殺は、個人の問題なので社会としてできること、すべきことはあまりないと考えられていました。けれど、自殺の多くは「追い込まれた末の死」であって、生きる道を選べるのであれば、そうする人がほとんどだと思います。自殺ではなく、誰もが生きることを選べるような地域や社会をつくることを目指して活動しています。

高梨:自殺対策と聞いて、いのちの電話のような、悩んでいる方の話を聞く活動を想像していました。

清水さん:よく間違われます(笑)。ライフリンクはいろいろな団体や組織をつなげながら、社会全体で対策をすすめるための枠組づくりをしています。まず自殺対策に関する法律をつくるよう国に働きかけ、2006年に施行されたのが自殺対策基本法です。この基本法によって自殺対策が自治体の仕事として位置付けられ、2009年ごろから事業化もされて予算もつくようになりました。都道府県に担当部署もできました。

市原:社会として自殺を止めるための仕組みができてきたんですね。活動を通した成果や自殺を取り巻く環境の変化というのは、感じますか。

清水さん:おととし、15年ぶりに自殺者が3万人を下回ったことは一つの成果と言えるかもしれませんが、まだまだですね。例えば、ある年3万2千人だった自殺者が、翌年は3万人になったとします。年間ベースで見れば2千人減っていますが、実際は新たに3万人の人が亡くなったということなんです。今でも1日に70~80人の人が亡くなるという緊急事態が続いています。

高梨:確かに・・・。1という数字の重みを感じます。

自殺遺児の取材が活動のきっかけ

市原:清水さんご自身はどうしてこういった活動を始められたのですか。

清水さん:私は2004年までNHKに勤め、『クローズアップ現代』のディレクターをしていました。その番組の取材で親をなくした子どもたちと出会い、自殺や遺族を取り巻く過酷な状況を知ったことがきっかけです。

高梨:過酷な状況というと。

清水さん:取材に応じてくれた学生は、中学2年生のときに父親を自殺で亡くすという経験をしていました。亡くなる前日、彼がお風呂に入っていると突然父親が入ってきたそうです。何年も一緒に風呂に入るようなことがなかったので、びっくりしてすぐに出てしまいましたが、その翌日、父親が自殺で亡くなってしまった。

市原:それは・・・。

清水さん:父親の事業が多額の借金を抱えており、自分の生命保険で借金を返済するために自殺したのではないかということが、後になって分かったそうです。その学生は、父親は自分に助けてもらいたくてお風呂に入ってきたんじゃないか、あのとき優しい言葉の一つでもかけていたならば、父親は死ななかったんじゃないかと強い自責感を持ちました。

高梨:とてもつらい状況ですね・・・。

清水さん:彼には家族として父親を引き留められなかったという無力感や、なぜ黙っていってしまったんだという怒りもありました。加えて、父親の自殺が周囲に知られて、いじめられないか、姉の結婚の障害にならないか、他人から責められて母まで消えてしまわないかといった恐怖心があり、つらい気持ちを誰にも打ち明けることができなかったそうです。

市原:私がその立場でも、そうならざるを得ないと思います。つらさを誰にも言えず抱えたまま生きることも、本当にきついでしょうね。

清水さん:大学生になって、ようやく同じ体験をした人と出会うことができ、これまで封印してきた感情を少しずつ出すことができるようになったそうです。自分と同じように孤立して苦しんでいる遺児たちに「一人じゃないよ」と伝えたい。そういった思いから、取材に応じてくれました。

高梨:その取材がライフリンク設立につながったのですね。

清水さん:はい。自殺は身勝手な死だという社会の誤解や偏見が、身内を失った遺児たちを二重の意味で追い込んでいます。一方で自殺に関する対策はほとんどとられていなかったことを問題視したんです。

遺族支援と自殺予防の両立

高梨:今でも自殺で家族を亡くしたご遺族の支援は、ライフリンクさんのご活動の柱の一つとなっていますね。

清水さん:遺族支援や自殺未遂者支援は自殺予防と両立しないんじゃないかとよく言われますが、私たちにとっては、それらを含めての自殺対策なんです。そのためには遺族の方たちが恐怖感を持たず安心して悲しめる社会であることが重要です。今すぐ社会全体の改善を、とまではいかなくても、最低限必要なのは、それぞれの地域で悲しみをわかちあえる場、「自死遺族のつどい」の支援ですね。

市原:それが、自殺対策にもつながるのですか。

清水さん:決して無理に話をしてもらうということではありませんが、経験を共有してもらうことで、どういった状況で自殺に追い込まれてしまったのかが立体的に見えてきます。情報を蓄積して、問題のありかが分かった上で対策をとれば、より効果的な自殺予防につながるんです。自殺未遂に関してもそうですね。未遂の後に生きることを選んだ人の体験からは、生きる道を選んだ岐路が見えてきます。その岐路を活かして、自殺の予防に役立てられれば。

高梨:気持ちを吐き出すこともそうですが、つらい体験でも人の役に立つのであれば、遺族や自殺未遂者の方も少しは救われるかもしれませんね。

清水さん:「自分の体験がほかの人の命を守ることにつながるのであれば、喜んで協力します」と言ってくださる方はたくさんいます。自殺未遂者の方はまだ問題を抱えている場合もあるのですが、こういった調査に協力してもらうことで、個別具体的な課題も見えてきますので、解決できる機関へ橋渡しもします。