第四回:これからの社会はどうあるべきか

広がっている無印良品の活動

国谷さん
そもそも、なぜ地域活性化に注目されたのでしょうか。
金井
東京は人間関係が分断・分裂していますが、地域にはまだ良い関係性が残っています。地方はどんどん財政が厳しくなるので、共助のような「助け合う」ことをもう一度思い出さないと、公共のサービス、モビリティなどいろいろなことができなくなります。そのときに、「一緒にやりましょう」「困っているなら今日やりましょう」といえる社会が、実はAIより大変先端的だと考えています。日本は課題の先進国であり、特に地方が課題が多くあり、共助の先の「公助」のようなことをやりやすいのです。
蟹江さん
経営者でSDGsに関心がある方々は、そのような発想を持っている方が多いです。ただ、社員に共有しているレベルが良品計画では全然違います。そもそも会社の成り立ちがSDGs的な発想からスタートしていることが違うところなのかなと思います。
国谷さん
格差是正に取り組むとおっしゃっていますが、みんなが満足できる品質で、みんなが買える値段をどうやって実現するのでしょうか。
蟹江さん
しかも、オーガニックコットンや認証された木材など、普通に考えると少し高いものを使っています。そうすると一般的には値段は高くなりますよね。
金井
無印良品では「わけあって、安い。」というキャッチコピーで商品企画がスタートしたように、現場に入りこんで、素材・工程・包装のムダを徹底的に見直していくことを重要視しています。例えば、紡績すると糸くずが落ちます。それを使って気持ちのいいバスマットを作りましょうよ、となるのです。
国谷さん
原料や素材を使い切るのですね。
金井
そうです。例えば、各アパレルがいろいろな色の商品を作ります。そうすると糸を全部使い切れずに残ります。これを残糸といい、残糸を集めて使ったソックスを作っていました。捨てられていたものを活用するのです。これも資源的にはもったいないから使いましょう、そういう工夫をどんどんやりましょうということです。
落ちワタふきん(※画像は発売当初のもので、現在発売中の商品と異なります。)
国谷さん
意地悪な質問をすると、今はファストファッションなどものすごく安いものが気の利いた形で売られる時代であり、無印良品が提供する商品と安く提供されている商品との違いが、だんだん分からなくなるというおそれがあるのではないでしょうか。
金井
その通りです。それはずっと経験してきたことです。
例えば、再生紙は創業当初から使っていました。最初は「こんなものは売れないよ」と言われました。割れしいたけもそうです。常に生活者視点からアイデアを出し続け、それの具現化に挑戦してきました。でも10年もすると、それが当たり前になります。だから、ホテルをデザインする、あるいは里山の保全をするという私たちの活動が、商品や活動としての総体の意味を表現する効果を持つのです。
蟹江さん
そういうことですか。だから、商品の背景や良い活動についてはあまり自らは語らないわけですね。活動を通して思想を語るということでしょうか。
金井
活動そのものに、商品の背景や意味、私たちの想いを反映させるということをしていかないと、商品だけでは差別化がなくなっていきます。
蟹江さん
とはいえ、消費者の教育という意味でも、もう少し発信してもいいのではないかという気もします。サステナブルファッションやエシカル消費などの動きも出てきていますが、まだ消費者自体がそれほど教育されていないと思います。もう少しやっていることを堂々と言うという側面があってもいいのかなと思いますが、出さない美学なのでしょうか。
金井
先人からそうでした。上手ではないですが、そこが無印良品なのではないでしょうか。
再生紙メモパッド(※画像は発売当初のもので、現在発売中の商品と異なります。)

※役職等は対談当時のものです