第四回:これからの社会はどうあるべきか

生産者と消費者をつないでいく

国谷さん
先ほどこちらに来る前に無印良品 の店舗を見てきました。私たちが気になっているプラスチックの問題について、みんなが気になってはいるけれど便利なのでなかなかやめられない状況に対して、無印良品だったら何か訴求してくれるのではないかという期待を持ち見て回りました。それから、店頭に並んでいる衣類などは、バングラデシュ、ミャンマー、ベトナムなどアジアの国々で作られていましたが、商品が作られている現場はどういう現場なのだろうか、オーガニックコットンと書いてあるけど、本当にこれだけたくさんオーガニックコットンを調達できるのだろうか、そこで生産されている衣服は、どんな状況で、どういう人に、どのように作られているのだろうか。あるいはパウチに入った食べ物がありましたが、食品ロスはどうなっているのだろうか。これらの課題に対して、どういう問題意識を持って取り組んでいらっしゃるのか、是非伺いたい。
金井
今挙げていただいた課題については、問題意識を大きく持っています。例えばパッケージは、できるだけ余計なことをしないということをやってきているつもりでいます。一例として、寝装カバーは袋に入れず紐で括って販売をしています。昨今のプラスチック問題について、靴下は極めて簡易な包装にしているだけではなく、フックもプラスチックから紙製に変えています。また、レジ袋についてもずいぶん議論をして、銀座店ではプラスチックバッグはやめて紙袋だけにしました。大きい商品用には、持ち帰り用の袋を購入いただき、使わなくなったらまた店に持ってきてください、というようなリサイクル可能な袋を用意しました。
袋に入れず紐で括って販売をしている寝装カバー
プラスチックから紙製に変更した靴下の陳列用紙製フック
銀座店から始まり、全店に広がっているマイバッグの取り組み

「おかげさま・おたがいさま・おつかれさま」を世界語に

国谷さん
今日のテーマ「これからの社会はどうあるべきか」ということを考えたときに、良品計画が掲げている「感じ良い社会」をつくっていくためには、それがどういう社会なのかという共通イメージを、作り手も、売り手も、買い手も、持てるかどうかが大切だと思います。
金井
資本の論理では、何でも快適・便利にということを考えますよね。でも、実際にそれで本当に幸せなのだろうか。私は日本がどうやって世界の役に立てるのだろうと考えたときに、「おかげさま」や「おたがいさま」、「おつかれさま」という文化を広げていくことではないかと思います。この言葉は英語やフランス語など他の言語にはありません。
こういう考え方は日本の風土や環境の中で生まれた言葉で、AIやドローンなどのテクノロジー競争ばかりでは仕方がないと思います。すでにテクノロジーでは劣勢ですが、むしろ、こういう言葉や基層文化から日本は役に立つべきだと思います。
国谷さん
SDGsの思想は、全てのいろいろな課題が底流でつながっていて、自分が悪影響を及ぼしていない、害を与えないと思っていても、回り回っては、そういうことをやっているかもしれない。反対にポジティブなことをやることによって、いろいろな課題解決が同時に行われるということが、SDGsが目指していることです。
そうすると「おかげさま」「おたがいさま」という考え方と、SDGsが生まれた思想という部分は近いのではないでしょうか、蟹江さんにはどう見えますか。
蟹江さん
何かを作っても、作って売って、普通はそこで終わりじゃないですか。でも実際大切なのは、その先どうやって廃棄するか、どうやってそれをもう1回使うか、そこまで考えるという発想だと思います。「おかげさま」「おたがいさま」の言葉はその発想のベースとなっている、理念ですよね。
金井
このように人間がつながっていくのではないでしょうか。
「おつかれさま」は、確かに他の2つの言葉と違って違和感があると思います。なぜかというと、労働に対する敬意があまりにもなくなってしまったから。中国のスーパーでは、スマホから注文して3キロ以内の距離であれば30分で無料で届けますというサービスを行っています。それは競争力になりますが、運んでいる人に対する敬意が払われていないような気がします。日本でも、小売業であるコンビニも困っていますし、物流会社も大変だというような社会になっていて、格差にもつながっています。
国谷さん
おそらくそれが今、社会の一番の違和感ではないでしょうか。以前はそうではなかったはずなのに、消費者は生産された新品の衣類が買われないまま、着られないまま大量に捨てられるということを承知でファストファッションを楽しんでいる。その服を一針一針縫った人や、一生懸命にボタン付けをしている人のことまで想像できない社会の仕組みになっています。
金井
その通りです。関係性がすごく弱くなり、感じる力も弱くなりました。そういう社会になってしまっていることが、いろいろな問題を引き起こしています。
「テクノロジーが何とかしてくれる」という期待を持つ人がいます。ただ、そのときに人間社会がどうなるかということも議論しておくことが大切です。今ですら人間社会がこれだけつながりがなく不安もあり、少子化が進んだ時代になってしまった。人類が自然へ挑戦し、自然にどう逆らうかという「文明」に対して、自然にどう合わせて生きていくかという知恵が「文化」とすれば、この文化という議論が本当に大切だと思います。

※役職等は対談当時のものです