くらしラボ酒田 松本 菜乃花さん

 当社では、今年6月に山形県酒田市に開設した「くらしラボ酒田」を拠点に、軽トラックでの移動販売を行っています。少子高齢化が進む中山間地域を中心に、食品や化粧水、文房具や調理用品など、無印良品で展開するくらしの基本アイテムを中心にお届けするとともに、地域住民の方々から日々の困りごとを伺い、地域課題の解決策を検討していきます。今月は、社内公募を経て酒田市に移住し、現地で移動販売を行っている松本さんの登場です。

■きっかけとなった「暮らしの編集学校」
 「酒田プロジェクト」は2019年夏に酒田市で実施した社内研修プログラム「暮らしの編集学校(以下、編集学校)」の成果として、同市より中山間地域活力向上事業の委託を受けることとなり立ち上げたプロジェクトです。私を含め社内公募で集まった17名の社員が酒田市を訪れ、地域住民の方々や自治体職員との交流を通じて、この地域でのより良い暮らしを考えた事業案を編集し、市長に向けて提案を行いました。
 もともと地方や島への移住に興味があった私は、わくわくしながら編集学校に参加しました。私達が担当した日向地区は、人口減少や少子高齢化が深刻化している中山間地域です。資源はあっても経済が循環していないという現実を目の当たりにすると同時に、人のあたたかさや優しさ、食の美味しさなどに直に触れ、短い研修期間中にこの地域のことが大好きになり、もっと魅力を知ってほしいという思いが強くなりました。どうすれば役に立てるのかということを同じグループのメンバーとともに必死に考え、人や暮らしの魅力と経済活動を掛け合わせた「ライフツーリズム」事業を立案し、その中のひとつのコンテンツとして移動販売を提案したのが、現在の業務に携わる大きなきっかけです。

■移住して感じた「移動販売」の必要性
 現在のメインの業務は移動販売です。編集学校での提案当時、移動販売はあくまで自分達が地域で役に立つ活動をするための資金を稼ぐための手段として考えていました。しかし、移住が決定してから改めて酒田市のことを勉強すると、多くの方が「買い物支援」を必要としていることがわかったため、移動販売で地域の役に立つにはどうすれば良いのか、どうすれば地域の方に喜んでいただけるのかということを一所懸命考えました。
 移住してすぐに、コロナ禍の影響で地域の交流の拠点であるコミュニティセンターが閉まってしまい、予定していた地域の方々への困りごとのヒアリングや無印良品のお披露目ができないなど、予定通りに進まないことが多くありました。また、1人では力不足な部分もあり、なかなかやりたいことまで辿り着けずもどかしく感じることも多々ありますが、地域の方々や関連部署の皆さんに助けていただきながら一歩ずつ進めています。
 移動販売を6月から開始し、少しずつ地域の方々の「くらしの楽しみ」になれているのかなと感じています。同じ集落に住んでいるのになかなか会えない方同士が、移動販売で久しぶりに顔を合わせるという場面も多く、買い物だけでなくコミュニケーションのきっかけづくりという点でもお手伝いができていることを嬉しく思います。
 一方で、無印良品を知らない方や停留所までが遠くて移動販売に来られない方もまだたくさんいらっしゃいます。より多くの方にお買い物を楽しんでいただけるよう、市の職員の方々や地域自治会の方々のお力も借りながら、少しずつ活動の範囲を広げていければと考えています。また、「商品がいっぱいあるけどほしいものがない」というお声もいただいています。10月からは、選ぶ楽しさを残しつつ、生活に必要なものがよりわかりやすいように、メリハリをつけた品揃えに見直す予定です。お買い物にいらしていただく方々の声に耳を傾け、少しずつ地域の困りごとの解決につなげていきたいと考えています。

■人と人がつながる土着化
 こちらに来てから、「お客様とスタッフ」ではなく、「その地域に住んでる人同士」という関係性になれていると感じます。「松本さんから買いたい」と思ってもらえることはとても嬉しいですし、幸せです。昔の商店街にあった八百屋さんや魚屋さんのように、顔見知りの人から安心して買うということは、店舗が土着化していく上で大切なポイントだと思います。いつか酒田市に無印良品の店舗がオープンするとしたら、気軽に雑談もできるような、人と人がつながっている店舗が理想です。
 今後は、社内に限らず地域プレイヤーも含め、同じ志を持って取り組める幅広い世代の仲間を増やしていきたいと考えています。少しずつ新しい取り組みもスタートしています。この地域と人が大好きだという気持ちを大切に、地域と無印良品がともに歩んでいけるような活動をしていきたいです。