募金券でつくれる未来
社員との対談
第41回 共存の森ネットワーク×良品計画 世代と世代、人と自然、つないで未来を考える。
募金券 寄付先団体の皆さんの活動を、良品計画の社員との対談を通してお知らせします。第41回は、さまざまな世代をつなぎ、自然と共存する知恵を次世代に継承することで、持続可能な社会づくりを目指す共存の森ネットワークさんにお話をお聞きしました。
- 消えつつある、自然とともに生きる暮らし
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豊かな自然に恵まれた日本には、元来、「自然と共存する生活」が当たり前のこととしてありました。経済が発展して久しい日本。今の私たちと同じような生活を世界中の人がおくると、必要な資源は地球2.4個分にものぼります。「100年先を見据えながら自然とともにする暮らし」に必要な、先人たちが育んできた知恵とは。農山漁村などで自然に密接した生活を営む人々と次世代の若者をつなぐNPOといっしょに考えてみましょう。
プロフィール
共存の森ネットワーク
共存の森ネットワークは、農山漁村で自然に関わる職で生業を立てる「名人」からその知恵を「聞き書き」する、「聞き書き甲子園」に参加した学生を中心に2007年に設立された環境NGOです。「人と自然」、「人と人」、「世代と世代」をつないで協働し、持続可能な社会づくりを目指すという理念はそのままに、現在では地域活性化や里山林の再生など、さまざまな事業を手がけています。
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吉野 奈保子さん
共存の森ネットワーク
理事・事務局長出版社勤務の後、民族文化映像研究所所員として、農山漁村の生活文化を調査、映像で記録する。2002年より「聞き書き甲子園」の運営を担当。2007年に、この活動に参加した学生たちとNPO法人共存の森ネットワークを設立した。本年度、第13回開催を迎えた「聞き書き甲子園」は、同NPOが事務局を担う。
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吉本 佳照
良品計画
業務改革部 海外施設設計課長1997年入社。店舗開発部施設設計担当として入社し、2008年より現職。いまだに無印良品の認知度があまり高くない海外出店では、ご来店いただく多くのお客様から売場を見て素直に「Wao!」と言っていただけるような店舗づくりを目指しています。趣味は毛鉤釣りで、休日は野山を駆け回っています。
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小松原 恒平
良品計画
経理財務担当 グループ連結会計担当課長2000年入社。東京、宇都宮、群馬県太田市、名古屋などでの店舗勤務を経て、経理財務担当に配属。店舗会計を行う会計センター課、開示資料作成や税務を担当する経理課、また中国での経理業務のサポートを担当後、2012年9月より現職。主に親会社(良品計画)と子会社(20社)の連結会計業務を担当。
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消えゆく「名人」の知恵や技を残す
吉本:共存の森ネットワークさんは、高校生たちが森や川、海といった自然に関わる仕事の「名人」たちから話を聞いてレポートする「聞き書き甲子園」の実行委員会事務局を担当されています。
吉野さん:「聞き書き甲子園」はもともと、林業従事者、木工職人、炭焼き、狩猟や山菜採りなどの「名人」を選定、表彰したいという林野庁の提案からのスタートでした。
吉本:では、はじめは国の表彰事業だったのですね。
吉野さん:そうなんです。名人の選考を進めていくうちに、表彰だけではなく、若者が中心となって、自然環境と共に暮らすための名人の知恵や技を、記録に残すことができないかという話になりました。そうして、議論を重ねていくうちに辿りついた着地点が「聞き書き」でした。
小松原:今となっては知る人も限られている、自然に関わる昔ながらの技術。確かに表彰するだけでは、もったいないですね。
吉野さん:林野庁と文部科学省の協働によって2002年に「第1回森の聞き書き甲子園」が開催されました。第2回目以降からはNPOや関連団体も実行委員会に加わり、企業にも協賛をいただいています。
吉本:多くの方がぜひ次も、と思う事業だったということですね。
吉野さん:高校生たちの発表は素晴らしかったですし、話を聞かせてくれた名人たちも、一生懸命話を聞いてもらえたことをとても喜んでいました。中には涙ぐみながら「10年前にはもっとすごい名人がいた。その人の話を聞いてほしかった」と言われる方もいたくらいです。やってよかったと感じるのと同時に、消えていくものをきちんと継承しなくては、とあらためて意識しました。
小野木:その「聞き書き甲子園」の卒業生たちが共存の森ネットワークさんの設立に携わったとか。
吉野さん:第2回のとき、1回目に参加した高校生たちにボランティアで手伝ってもらったのですが、終了時に「僕たちの人生はこれで変わりました。ぜったいにやめないでください」と言い出したんです。そこで、聞き書きで記録に残すだけでなく、農山村地域での実際の活動につなげていくため、任意団体「共存の森」を立ち上げました。今では「聞き書き甲子園」の卒業生を中心に、里山整備や棚田保全など農山漁村地域で活動を行い、その拠点は全国6地区7カ所にまで広がりました。
小野木:高校生が自分たちで動いたということもすごいですね。それだけ印象的な体験だったことがわかります。
吉野さん:参加者は名人と一対一で話を聞き、記録に残します。違う価値観に真っ向からふれることが心に残るのでしょう。
世代を超えるコミュニケーションを学ぶ
小松原:参加者は、やはり環境問題に興味があったり、自然が好きな方が多いのですか。
吉野さん:参加の理由はさまざまですね。森や昆虫が好きな子もいるし、人の話を聞くのが好きという子もいます。環境問題に関心を持っている場合が圧倒的に多いのですが、地方の高校生の場合は、東京に行けるからという理由で参加する子もいます。笑
小松原:東京で研修が実施されるからですね。笑。修学旅行のようで、楽しそうです。
吉野さん:研修内容は主にレポートの書き方なのですが、聞き書きは普通の取材と少し違います。取材相手の話し言葉のみで構成し、参加者自身の質問や感想・意見を文中に残さないんです。
小松原:聞いたことを書き起こすというだけではないのですね。ちょっと難しそうです。
吉野さん:丁寧に聞くことがコツなんです。例えば炭焼き職人の方に「炭ってどうやって焼くんですか」と聞いて「この窯に入れるんだよ」と言われると、優等生ほど「あ、そうですか」で終わってしまいます。でも聞き書きはそこで終わらせてはいけないんです。「木の種類は何ですか」「いつ窯に入れるんですか」「一つの窯にどれくらい入るんですか」と、丁寧に細かく質問しなくてはいけません。技の伝承も目的のひとつですから。
吉本:「炭を焼いている」という一言と大きく違う、とても細やかで豊かな情報量ですね。名人のお話を直接聞いているような臨場感が伝わりそうです。
吉野さん:そうなんです。一つ一つ聞いたことが驚きや共感になり、それらが集まってはじめて「いや、しんどいけどね、いい炭を焼いて、喜んでもらえると嬉しいんだよ」という最後の一言が生きてくるのです。
小松原:見たこともない作業をしている方にそこまで細かく取材を行うのは、簡単なことではないですよね。
吉野さん:よく学生に「分かったつもりにならないように」と言い聞かせています。質問を重ねるのはしっかりとした情報を得るためだけではありません。謙虚に、懸命に話を聞くことで、名人たちも「そんなことまで知りたいのか」と熱を入れて話をしてくれます。そうすることで初めて信頼関係ができるわけです。
吉本:コミュニケーション能力が磨かれそうですね。環境活動としてはユニークな取り組みなのではないでしょうか。
吉野さん:そうかもしれません。内容は環境教育ですが、キャリア教育にもなるし、おっしゃるとおり、コミュニケーション教育の側面もあります。名人の知恵や生き方を通して、人と自然のつながりを学ぶんですね。