募金券でつくれる未来
社員との対談
第49回 日本ナショナル・トラスト協会×良品計画 「美しい自然を守りたい」という想いを実現する。
行政との連携という課題
樋熊:土地の管理となると、地方自治体の活動領域でもあると思うのですが、行政との連携という点はどうなのでしょうか。
中安さん:難しい部分ですね。例えば土地の寄付で言うと、本当は市町村が受け取れるといいんですけれど、あまり土地の寄付を受け入れていないところも多いんですよ。
荒川:それは維持や、管理などの問題からでしょうか。土地を持つということは、それだけ大変なことのようにも考えてしまいます。
中安さん:ええ。天候によっては土砂災害や、あるいは倒木の問題へも対応が必要になります。さまざまな手間が発生してしまうのが、土地の管理というものです。
樋熊:活動そのものを知って寄付してくれる人はもちろん素敵ですけど、自分だったらまずは近所の役所へ相談に行こうという発想になりますね。そこで受け入れられないとなると、困窮してしまう可能性もあります。
中安さん:おっしゃる通り、ひとまずは受け取れる土地については私たちで受け取りますが、本当は自治体が自然を地域の財産と捉えて受け入れていく状態が理想的です。今すぐには難しいですが、将来的には自治体がそういう土地の受け皿となるような流れをつくれるといいなと考えています。
取得したトラスト地と、支援する人々を繋ぐ
樋熊:自然のまま残すということは、取得した土地は基本的に、人があまり立ち入らない状態になるのでしょうか。
中安さん:土地の状態や立地にもよりますが、可能な限りトラスト地と支援者を結びつけていくように取り組んでいます。最近では奄美大島に購入した土地と支援者を結びつける「アマミノクロウサギ・トラスト・キャンペーン」というものを実施しました。奄美大島って行かれたことはありますか。
荒川:実際に行ったことは無いですね。自然が豊かで、希少な動物も多く存在している印象があります。
中安さん:やっぱり東京から距離があるということも手伝って、なかなか身近には感じづらいんですよね。そこで、奄美大島で購入した土地については「一筆オーナー・コース」という寄付プランを実施しました。どういったものかというと、まず土地の区画を分割して番号を振り、それぞれの広さに応じて値段を設定したんです。そして、寄付をした支援者がそこの命名権を手に入れられるんです。現地には命名された森の名前が入った看板を立てています。
樋熊:「寄付」とだけ聞くとなかなか敷居が高いですけれど、命名権を手に入れることができるとなると、物語があって面白いですね。
中安さん:漠然と「寄付をください」だと今一つ響かないのですが、支援がどのように活用され、どういう結果を生んでいくかというストーリーを上手く伝えることができると、寄付という行為の雰囲気そのものが変わります。このキャンペーンのときは、東京など奄美大島から遠く離れた地域に暮らす方々からの寄付がすごく多かったんですよ。
荒川:活動を広めていくという意味では、そういう自分の寄付によって起こることの感動を知った人が増えていくと、どんどん拡散していきそうです。
中安さん:ええ。活動が広がった反応として、奄美大島で暮らす高校生たちがスーパーの前で募金を始めてくれたりもして。寄付をいただいて買い取ることもすごく大切なのですけれど、色々な人の意識にトラスト活動が広まっていってくれたのが嬉しかったですね。
「ナショナル・トラスト」という言葉と文化を広める
樋熊:トラスト活動を支援してくために、私たちにはどういったことが出来るのでしょうか。
中安さん:例えば各地の団体が開催しているイベントや、ボランティア活動に参加してみるという手段があります。調べてみることで、身近なところの綺麗な風景が実はトラスト活動で守られた土地だと知ることもありますので、まずは興味を持って活動との距離を縮めてもらえたらと思います。
荒川:身近な土地であればあるほど、切実な問題として捉えられますものね。
中安さん:はい。身近な問題として捉えても、個人でトラスト活動を行うのはすごく難しいんですよね。やはり土地というのは安価なものではないので、守っていくには大きな力が必要になってきます。色々なことを知って、そのうえで「守ってみたいな」と思ったときに寄付を考えてもらえれば嬉しいです。
樋熊:活動を知りさえすれば、共通認識として「自然を守りたい」というのはあるから、力になりたいとはみんな感じると思います。
中安さん:ええ。知ってもらえれば、奄美大島の希少な生き物たちであったり、釧路の湿原であったり、大切な景色として思っている人も多いと思うんですよね。だからこそ、まずは意識的な広がりが重要課題です。
荒川:私有地が多くの割合を占めているということ自体、お話を伺うまで知りませんでした。いつなくなるかわからない危うさを抱えていると知ると、やっぱり自分にとって出来ることというものに考えが巡ります。そういう人が増えていくことで、動きは大きくなっていきますよね。
中安さん:実際、鎌倉ではトラスト活動の後に「古都保存法」という法律が出来て、鎌倉だけでなく京都や奈良も含めて、国による保護地域がいくつか出来たんですよ。民間が主導したものに、国の制度が追いついてきたというケースです。
樋熊:「守りたい」という想いを持ったたくさんの人が結束して、点から面になっていくことはすごく重要ですよね。個人個人での行動も大切ですが、塊で動くことはより大きな変化に繋がるのではないかと期待が持てます。
中安さん:最終的には日本人のほとんどの人が「ナショナル・トラスト」という言葉を知っているというところに行きつきたいですね。どこかで誰かがやっている仰々しい活動ではなく、綺麗な景色を自分たちの手で守っていく活動として、身近に感じてもらえるようになれば。その時は、きっと色々な人にとって自然を守るという行為が「自分ごと」になってくるのかなと思います。
対談を終えて
樋熊:自然保護に関する話は、どこか遠くで起きている出来事のように感じてしまうことも多いと思います。けれども、例えば休日に素晴らしい自然に出会ったときなどに、ナショナル・トラスト活動の恩恵を受けているのかなと考えられるようになったり、より身近に感じられるように思いました。以前に行ったことがある場所の中にトラスト地があったということも知り、活動の価値を実感しています。今後も個人として、あるいは一人の社会人として、活動のお役に立てる可能性もあるかと思いますので、そういった部分も含めて活動のことをしっかりと心に刻んでいきます。
荒川:あらためて「自然は未来に残っていてほしい」と強く思いました。景色は永遠ではないものです。何もない自然だけだったようなところに、高層ビルが建ってしまってまるで違う土地になってしまったという経験をしたことがあります。トラスト活動は、そのような寂しい気持ちを感じる人を減らしていける活動だと思います。自分が行動として活動を手助けできる部分について、今後ゆっくりと考えていきたいです。
※役職等は対談当時のものです
日本ナショナル・トラスト協会は、2012年11月26日から2013年2月24日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
647人の方から合計76,440円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。