募金券でつくれる未来
社員との対談
第51回 Nature Saves Cambodia-Japan×良品計画 カンボジアの地雷原を、希望の綿畑に。
社会貢献活動を行う団体の活動を、良品計画の社員との対談を通してお知らせします。第51回は、カンボジアの地雷原をオーガニック・コットンの畑に蘇らせる活動を行っている、Nature Saves Cambodia-Japanさんにお話をお聞きしました。
- オーガニック・コットンの畑という、未来を育む種を蒔く
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カンボジアでは内戦中に400~600万もの地雷が埋められたといわれており、今なお地雷被害者は跡を絶ちません。日本では考えられないことですが、地雷原のすぐ近くで多くの人々が生活を営んでおり、そのうえで地雷被害者や女性は、経済的に特に厳しい生活を余儀なくされています。多くの社会課題を抱えるカンボジアにおいて、昔ながらのオーガニック・コットンの畑を蘇らせ、手紡ぎ・手織りのコットン製品を復興させることで、現地の人々の生活をサポートしているのが、Nature Saves Cambodia-Japanさん。地雷原の再生を通じ、カンボジアの未来を育む活動に迫ります。
プロフィール
Nature Saves Cambodia-Japan
Nature Saves Cambodia-Japanは、カンボジアの地雷原の再生を通して、地雷被害者を中心とした貧困層の就労・ビジネスの機会を提供しているNPO法人です。現地のNGOとともに、「人(地雷被害者を中心とした安定した収入の確保)」「土地(地雷原のオーガニック・コットン畑への転換)」「製品(コットン製品の復興・向上・開発)」の3つの取り組みを柱として、地雷原の周囲で暮らす人々の生活をサポートしています。
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岡本 昌子さん
Nature Saves
Cambodia-Japan
副理事長福岡市出身。金沢美術工芸大学でテキスタイルを学び、自身では羊毛の手紡ぎ手織り作品を中心に制作を続けている。
友人が立ち上げたNature Saves Cambodia-Japanに6年前から関わり、カンボジア・バダク村にある地雷除去地の綿畑で栽培されたオーガニック・コットンの魅力を広めるために、コーダエ村のおばあちゃんやお母さん達と、より上質な「暮らしの布作り」に取り組んでいる。
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倉本 義夫
良品計画
衣服雑貨部 PD担当1996年入社。無印良品三軒茶屋に配属後、1999年に横須賀モアーズ店で店長に着任。その後、新店オープンを含め4店舗の店長業務を5年間経験し、2004年に本部に異動、業務改革部店舗サポート課を4年間経験し、2008年より衣服雑貨部DB数値担当、MD開発担当を経て現在はPD担当として、紳士服・婦人服の生産管理、品質管理に携わる。カンボジアの縫製工場には年間4~5回のペースで訪問をしている。
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山谷 充紀
良品計画
生活雑貨部 ファブリック担当 MD開発2002年入社。無印良品難波に配属後、関西の店舗にてスタッフとして勤務。関西を中心に5店舗で約9年間店長職を経験し、2014年9月より現職。現在の業務内容は、ファブリックのMD開発担当として、布団やまくら、寝装カバーの開発を担当。店舗経験を活かし、お客様・店舗スタッフの意見を反映したモノ作りに注力。趣味はテニス。二児の父。
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痛々しいほどに残る内戦の爪痕、「地雷」
山谷:カンボジアの地雷を除去し、そこをオーガニック・コットンの畑に転換されていくというご活動をされているとお伺いしました。
岡本さん:はい。私たちは、カンボジアのタイの国境近くにあります、内戦中に地雷がたくさん埋まった地域の地雷を除去した後に、そこを元々あった綿畑に戻す活動を行っています。その活動を広げるにあたって、カンボジアの状況を知っていただくために、日本の方に向けたスタディ・ツアーを企画し、また、地雷被害者や女性の雇用問題への解決を考え、現地の人々の手によるコットンの栽培や製品づくりへのサポートをしています。
倉本:実際、今地雷というのは、どのぐらいの数が埋まっているのでしょうか。
岡本さん:CMAC※などが公表した数字としては、内戦時代に400万~600万の地雷が埋められたとされています。しかしながら、政府軍とゲリラ軍が埋めあっていることもあり、具体的な数字は把握できていません。
山谷:凄まじい量ですね。今でも、地雷による事故というのは頻繁に起きているのですか。
岡本さん:3年ほど前の記録では、年間で約200人が被害に遭っていました。各国にある地雷除去活動に関わるNPOなどの団体や、協賛する企業からのサポートで、地雷除去は想定より早いスピードで進んでいて、現在事故の件数が少しずつ減ってはいるのですが、まだまだです。やはり、地雷が0個にならない限りは、危険がない状況とは言えません。
倉本:地雷の根絶というのは、やはり難しいのでしょうか。
岡本さん:まず、兵器には「この程度時間が経ったら機能を失う」という期間があるのですが、地雷の場合は安全とみなされるまでに100年かかると言われています。内戦が活発だったのが1975年~1980年ごろ。そのため、あと70年ほど、地雷は危険性を持ったまま埋まっていることになります。
山谷:戦争が終わっても、その残酷さを保ち続けたまま眠っているんですね・・・。あらためて、地雷という兵器の恐ろしさを感じます。
岡本さん:さらに、カンボジアでは雨期に激しいスコールがあり、土が流されて地雷が最初に埋めた位置から大きく移動してしまっていて、撤去作業を進めていくうえでの問題になっています。さまざまな要因から、地雷の根絶には長い道のりが必要とされており、地道に粛々と除去作業を続けていくことこそが大切なんですね。
※CMAC(シーマック):Cambodian Mine Action Centre。カンボジアの地雷撤去を中心となって推し進めている、現地の政府機関。
巻き起こる近代化の波
倉本:未だ地雷の被害が深刻だということに、かなり衝撃を受けています。カンボジアの縫製工場を訪れる時は、首都のプノンペンを中心に行動しているのですが、正直なところあまり実感が湧きません。今のプノンペンって、ものすごく都会ですよね。「地雷」というイメージと結びつきにくいほどに。
岡本さん:近代化が急速に進んでいますよね。若い子たちはスマホを持っていますし、男の子はみんな腰パンですし(笑)。
山谷:腰パンなんですか(笑)。
岡本さん:はい(笑)。近代化の波が、経済的にも文化的にも、一挙に来ています。そういった現代的な文化が浸透する一方で、家族の絆が強く、信心深い。昔からのカンボジアの良さは、まだそのままに残っています。ちょっと話が逸れますけど、カンボジアで暮らす人々って、内戦であれだけの体験をしながら、本当に明るくて素敵な方が多いんですよ。
倉本:穏やかで明るくて、とても優しい方々ですよね。私もそう思います。
岡本さん:特に胸を打たれるのが、家族をとても大事にして暮らしているところです。地雷被害者の人たちは都市から離れた村に暮らしていることが多いですが、ほとんどの場合、ご家族の方々が懸命に生活を支えています。
山谷:信心深さや家族仲の良さといった、素晴らしい文化が残っている状態なのですね。そういったものは、そのままに成長していってほしいようにも思います。もちろん、決めるのはカンボジアの人々ですが。
倉本:お話を伺って、地域格差が広がって、地方が都市の成長についていけなくなってしまっているような印象も感じます。
岡本さん:今、カンボジアという国は、私たち日本人が辿ったものとよく似た成長過程を辿っています。カンボジアの発展は素晴らしいことだと思う反面で、この国に関わっているわたしたちも、「それでいいのかな?」という疑問をカンボジアの人々と一緒に考えていきたいんです。活動を通じて、現地の人たちが、今持っている「カンボジア人らしさ」を保ちながら生きていける場所をつくるお手伝いができたら、というのは、強い想いとしてあります。
カンボジアの人々とともに、未来を紡ぐ
山谷:現地では、どういった方が仕事をされているのでしょうか。
岡本さん:今、農作業の中心になっている方は2人います。内戦時代に太ももから膝にかけてかなり深い傷を負っているサエムさんという50才くらいの方がリーダーで、もう1人がチャンタくんという次代のリーダーで30才の若い男性です。チャンタくんは、10代のときに地雷を踏んで、左のひざの少し上あたりから足がありません。
倉本:カンボジアは国全体で見ても、雇用に関しては簡単な状況ではないですよね。そういった社会的に弱い立場に置かれている人には、より一層厳しい状況が取り巻いているように思います。
岡本さん:そうですね。低い収入ならばなんとか雇用があるという面もあるのですが、少しでも多くの収入を求めてプノンペンや、あるいは国境を越えてタイに出稼ぎに行く方も増えています。地雷被害者や女性にとって、雇用が充実しているとはとても言えません。
山谷:そういった中で仕事を生み出すことができるのは大きいですね。衣服などの工房もあるとお聞きしましたが、そちらは女性が中心なのでしょうか。
岡本さん:プノンペンから1時間くらいのところにあるコーダエ村に、クロマー(カンボジアのストールで万能布)や生地を作っている工房があります。工房でコットンの糸紡ぎをしているのはおばあちゃんたち、その糸を織っているのはお母さんたちです。
倉本:活動の手応えとして、生活の変化を感じたりはしますか。
岡本さん:そうですね。実はカンボジアって婿取婚が中心で、女性側の家に結納金としてある程度お金が貯まっていないと結婚ができないんです。ご存知でしたか。
山谷:知りませんでした。では、雇用と収入の問題と、家族というものの発展がすごく直接的に繋がっているんですね。
岡本さん:はい。ずっと工房で織りを担当しているピアさんという女性が、数年前にお金を貯めて結婚されました。そして可愛い女の子が生まれ、もう2歳です。今ではピアさんは、ベテラン織り手の1人です。そういう結果を聞くと、活動を続けていてよかったと実感しますね。
倉本:ご活動が、カンボジアの人々の生活と、そこから紡がれる未来を創りだしているんですね。とても素敵なお話です。