募金券でつくれる未来

社員との対談

第39回 ライフリンク×良品計画 つながることで、命を守る。 第39回 ライフリンク×良品計画 つながることで、命を守る。

鍵は社会への信頼性

市原:日本の自殺率は、海外と比べても高いのでしょうか。

清水さん:日本の自殺率はアメリカの2倍、イギリスやイタリアの3倍と、先進国の中で突出しています。

高梨:そんなに多いのですか!

清水さん:1997年までは日本の自殺者数は2万人前後で推移していました。それが98年に一気に年間8千人以上増えて3万人を超えました。以降高止まりの状態が続いています。

市原:97年に何があったのでしょうか。

清水さん:消費税が3%から5%に引き上げられた影響もあって景気が腰折れしました。97年から98年にかけて大手金融機関が次々と破たん。倒産件数が増加し、失業率が初めて4%台になったんです。そうした社会経済状況の悪化に引きずられて、自殺が急増に転じました。

高梨:あの頃は、まさかと思うような暗いニュースが新聞紙面に連なっていました。

清水さん:その結果、それまで社会的には強い立場にあった中高年男性が大量リストラや倒産などで、一気に弱い立場になってしまい、そうした想定外の事態に社会のセーフティーネットが対応できず、自殺に追い込まれる人が増えました。以降、自殺率が高い状態のままだというのは、自殺をタブー視するあまりサポート体制を取ってこなかった日本特有の問題です。

高梨:日本での自殺者が多いというのは、宗教的な拠りどころがないことも関係あるのかなとも思ったのですが。

清水さん:それが唯一の理由ではないと思いますが、要因の1つではあるかもしれません。例えば、国民の大半がイスラム教徒であるトルコの自殺率は日本の7分の1以下です。イスラム教では人は神からの授かりものとされているので、何かあっても、最終的には神がなんとかしてくれるだろうという安心感があり、またコーランの中に、困った人を助けたら来世の自分ためになるという教えもあり、助け合いの文化が定着しているそうです。

市原:「なんとかなる」という安心感が信仰によって支えられているんですね。

清水さん:逆に言うと、宗教に頼らずとも、いざというときには地域や社会が助けてくれるという信頼感があれば違ってくるんです。日本はいざというときに助けてくれる社会だと思いますか?

市原:そうです!とお答えしたいのですが、違うかも・・・。

「追い込まれる社会」の解決から「生き心地のよい社会」を目指す

清水さん:実は日本では、若者の社会に対する信頼度もとても低いんです。最近就活自殺が増えており、実態を知るため200名ほどの学生を対象に調査をしたのですが、その7割が、現在の日本に対して「正直者がバカを見る社会」で「いざというときに社会は助けてくれない」と感じているという結果になりました。

市原:学生は、社会人よりも希望するものを享受していると思っていたのに。社会に出ると、努力が結果につながらないこともよくありますし・・・。

清水さん:大学を出ても正社員になれない時代で、「社会に出る」ことさえ叶わないと不公平感を持ってしまうのでしょう。社会も地域も助けてくれないならば、自分で何とかしなくてはいけないと、正社員指向がとても強くなっています。なのに、それが叶わないときに理想と現実のギャップに苦しむことになる。「死にたい」というより「割に合わなさすぎて生きるのをやめたい」と感じているのではないでしょうか。

市原:それを上回る楽しいことがないと思ってしまうんですね。こういった状況もふくめ、ライフリンクさんが目指す、生きやすく自殺がない社会とはどういうものですか。

清水さん:目指すのは「生き心地のよい社会」と言っていますが、具体的には誰もが自分自身であることに納得しながら生きることのできる社会です。満足しながら生きられれば、もっといいのですが。

高梨:ただ生きながらえているのではなく、納得して生きるというところがポイントですね。

清水さん:はい。「生き心地のよい社会」は理想ですが、その対極にあるのが「人が自殺に追い込まれる社会」です。自殺まで至らなくても、生きづらいと思っている人は実際に亡くなる人の何十倍もいます。理想をストレートに追い求めるのではなく、正反対の場所から変えていくことで、学んだことをやがて上流にも遡って生かせるのではないかと考えています。

市原:ゴールは見えていらっしゃるのですか。

清水さん:本当は当初、この活動は3年間の時限的プロジェクトのつもりでした。3年で法律をつくり、法律ができれば自殺対策は回るものだと思っていたんです。しかし、実際は法律だけでは変わらないということに気付きました。対策を社会に根付かせるためには、法律の理念を施策に落としこみ、その施策が現場で実施されること。さらに施策の効果を検証し、その結果をフィードバックするというサイクルを確立することが必要なんです。

高梨:法律というのは、あくまでもスタートラインなんですね。

清水さん:そうなんです。実際に現場での取り組みに反映されないと。ただ「こういう方向で進めていけばいいんだ」ということは分かってきました。自殺対策のモデルもできて、いろんな機関をつなげるネットワークもできた。国から市区町村単位の詳しいデータも公表されるようになりました。あとは対策がうまく回っているか検証する仕組みです。そしてそのために、この秋に学会を立ち上げる予定でいます。

市原:そうすると、いよいよ枠組が完成しますね。

いずれは発展的解消を

清水さん:そこまでやって、軌道に乗ったら、そう遠くないうちにライフリンクも発展的解消ができるんじゃないかと思っています。

高梨:発展的解消。確かに、一定の効果を見る日が解散のときなのは納得です。その日のために貢献できるような、企業や個人でできる、自殺対策の取り組みはありますか。

清水さん:もちろんあります。まず、周りの人たちとかけがえのない時間を過ごすということですね。皆、いつか大切な人との別れが必ずやってきます。それを意識するだけで、少し謙虚になり、相手のことを尊重できるようにもなると思います。

市原:つい日常の忙しさにかまけて、忘れがちですが大切なことですね。

清水さん:もう1歩踏み込むなら、自殺の問題に関心を持って事実を知ることです。本を読んでもいいし、シンポジウムなどに参加してもいいと思います。

高梨:若い頃に「死」について教えることも大切だと思います。「かわいそう」ということではなく、おごそかなことだということを教えておくことも必要なのではないでしょうか。

清水さん:核家族化が進み、日常の中で死に接する機会が少なくなっていますからね。学校でも死ぬと大変だということで小動物を飼わなくなっていると聞きます。死に触れさせない社会のツケが、いまだんだんボディブローのように効いてきているように感じます。

市原:確かに、死について身近なものであるという実感を得られないまま、大人になってしまいがちです。

清水さん:それぞれが、かけがえのない人生です。死を意識することで、自分の人生にも終わりがあり、かけがえのない時間を過ごしているんだという感覚につながればと思います。

高梨:それが先ほどおっしゃっていた「納得して生きる」ということですね。

清水さん:もう1つ言うと、企業に勤め、生活が安定している人ほど、地域とつながりを持って貢献してほしいですね。関心の和を広げていかないと、地域や社会が瓦解してしまいます。ぜひ企業の皆さんに関心を持ってもらいたいですね。

対談を終えて

高梨:自分の死について考えたこともないので対談の話を聞いた時、正直に言うととまどいました。しかし「生き心地のよい社会」をつくり、活動をいずれ解消することを目指すという理念は賛成です。自殺したい人を出さないよう、企業に勤める人間として私も自分にできることをやらなくてはいけないなと思いました。

市原:自殺を考える団体の方との対談ということで、構えるところがありましたが、社会での個人のありかたや生き方、そして、どういう社会を皆で目指し行動しなくてはいけないのかということについて考える、よいきっかけをいただきました。

※役職等は対談当時のものです

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