募金券でつくれる未来
社員との対談
第43回 BONDプロジェクト×良品計画 生きづらさを抱える女の子たちに、心の居場所を。
SOSを口にできない女の子たち
小山:自分のことを誰かに聞いてほしい、という気持ちはあるんですよね。
橘さん:もちろんあります。でも、友達に話すと引かれちゃうし、いじめの対象にもなる。親は「恥ずかしい」「世間体があるからやめなさい」と責めるばかりで理由を聞いてくれない。なかなか身近な人には話せないんです。親としてもなかなか聞けない、聞きづらいという事情もあると思いますが、できるだけ親身に耳を傾けてほしいですね。
橋本:そうして誰にも相談できないうちに、どんどん追いつめられてしまうんですね・・・。
橘さん:「話せる人がいない」という子たちが連絡をくれても、話したくないことを無理に聞き出すことは絶対にしません。話を聞いて、どういう解決策があるかを一緒に考えます。昨夜電話相談を受けた中にも、性暴力で被害届を出した方がいいものが3件あったんです。けれど本人は、警察に言いたくない、親に知られたくない、学校にばれたくないと、被害届を出さずにつらい思いをしている。
橋本:聞いているだけでつらくなる話です・・・。
橘さん:だめだよ、変えようよ、と背中を押さなくてはいけないこともあります。周囲に相談できないというのは、それだけで深刻な状態でもあるんです。
小山:相談してくるのは、どういった女の子たちなんでしょうか?繁華街に集まっているというと、少し目立つ子を想像してしまいがちなのですが・・・。
橘さん:BONDプロジェクトに相談してくれる子の多くは、見た目は本当に普通の子です。おとなしくって、性的なことを求められると嫌だけれど、自分を必要としてくれているんだと思ってしまい、何よりも人に嫌われたくなくて断れない。
橋本:人から必要とされたことがないと思ってしまっているんですね。どこかで「愛されていない」と感じるからでしょうか。
橘さん:「愛されていない」というよりは「ありのままの自分を受け入れてもらえない」と感じています。親の理想にあてはまらないと、自分はダメな子だと思ってしまう。親から過剰な干渉を受けているため、自分の意思が持てず、食べたいものも、着たい洋服も自分では分からない大学生にも会ったことがあります。たとえ愛されているとしても、過干渉だと虐待にもなり得るんです。
小山:根が深いですね・・・。解決が難しそうです。
橘さん:すぐに解決できる問題ではありません。たぶん彼女たちは、一番苦しいときに私たちに相談をしてくれています。だから「こういう風にすれば、危険なところに行かなくても大丈夫じゃない?」という選択肢をなるべくたくさん教えるんです。その道を選んでくれたらいいな、といつも願っています。
小山:家を飛び出したり、生きるのがつらくなってしまうことを繰り返す方もいるんでしょうか。
橘さん:多いですね。でも、ゆっくりであっても良い方向に向かう可能性はたくさんありますから、すぐに結果を求めてはいけないと考えています。なので「こういう状況はずっとは続かないよ、きつかったら逃げてもいい。でも逃げる先はちゃんと考えて決めてね」と伝えます。逆に言えば、逃げる先をきちんと考えて決められない子は、犯罪に巻きこまれたり、被害を受けたりしている。それを食い止めたいから、私たちは街へ出るんです。
大人になりたくないと思わせる社会
橋本:背景にある課題は、個人の事情によるものなのでしょうか?
橘さん:社会的な問題もあると思います。親や先生など、近しい関係の大人だけではなく、ふれ合ったすべての大人たちや社会が「こんな大人になりたくない」「こんな社会に生きたくない」と思わせているんです。だから、相談できて、親身に考えてくれる大人がたくさんいれば状況はきっと変わります。自分自身でそんな大人を見つけるという、生きていく上で必要な力も、女の子たちに身に着けていってほしいです。
小山:大人の責任について、もっと私たちも受け止めないといけませんね。
橘さん:女の子がネットの掲示板に「会えますか」と載せると1分で10件くらい返事が来るそうです。大人が子どもを利用しているんですよ。
小山:女の子を利用しようとする大人が多いのも社会の問題ですよね。女の子たちが自分で身を守る術も必要ですが。ネットでの出会いに不安を持っていないのでしょうか。
橘さん:危険を判断する力や、身を守る術を知らない子は少なくありません。だからこそ、ネットで知り合った、名前も知らないような人のところを泊まり歩くわけです。そういう子には「何かあったときに私が行けるように、郵便物の写メールを撮って送って」って言うんですよ。それで初めて身を守る方法を知ったり、やっていたことの怖さに気づいてくれる子もいる。
橋本:それまで、身を守る方法について教えてもらったことがなかったんですね・・・。
橘さん:危険に気づいて「怖いからやめる」と言ってくれる子もいます。やめたくない、やめられない子には意見を押しつけず「じゃあ、また相談して」と言います。つながりさえなくならなければ、また何か力になれる機会があるかもしれませんから。
小山:あきらめるのではなく、関係性を大事にされるのですね。
橘さん:問題が発覚したら多くの場合、女の子たちだけが「あなたが悪い」と責められてしまう。叱りたくなる気持ちもわからなくはありません。でもその背景には、子どもたちを利用した大人がいて、アドバイスをあげなかった人たちもいる。だからいつも、その子たちだけの問題じゃないと考えて、関係性を築くようにしています。
橋本:社会的な問題という意味が分かりました。自分を利用する社会の中で育ったら、確かに信用できなくなってしまいますよね。
橘さん:性産業では、1歳年齢が変わるだけで、もらう金額が違ったりもします。そんな経験から「18歳すぎたら価値がない」なんて自分の価値を決めつけてしまう子もいるんです。聞きながら「じゃあ私なんかどうなってしまうの!?」って思いました(笑)。
小山:女の子たちに、将来に希望を持てるようになってもらいたいですね。
橘さん:17歳だからできること、18歳だからできることはあるかもしれません。でもそれであなたの価値が変わるなんてことはないし、大人になってもおばさんになっても人生はとっても楽しいから、そこをちゃんと伝えたいですね。
国や自治体とも連携し活動を広げたい
橋本:これから力を入れたい活動を教えてください。
橘さん:行政にも一緒に考えて対策を立ててもらうために、データを集めています。また、性被害を受けた子たちがどこにも相談にいけず泣き寝入りしている事実を知ってもらおうと、映像化も進めています。
小山:もっといろんな方にBONDさんの取り組みを知ってもらえそうですね。
橘さん:あと、相談者の女の子たちとお茶でも飲みながらリラックスして話せる雰囲気をつくるために、移動カフェをやりたいんですよ。そこには弁護士や婦人科医にも同席してもらえたらなと思っています。
小山:相談者目線を徹底されているんですね。続けてきてよかったなと思うのはどういうときですか。
橘さん:いろいろな思いはありますが、相談者と今はこうして生きていて、つらいこともあるけど、おいしいご飯を食べて笑っていられるね、と感じあえるだけでもいいかなと思います。相談にのると、この子はこうなってほしいという道筋と手段は頭に浮かびますが、その子から拒絶されて、関われなくなることはしたくないんです。だから、無理強いはせずに、どんなときでも会える関係を続けたいですね。
橋本:相談者の方と向き合っていると前向きに考えることが必要ですよね。ご自身がつらくなることはないですか。
橘さん:関わると、悔しいこともいっぱいありますが、やっぱり楽しいですよ。私は支援者というよりは、その子の人生を応援する一人だと思っています。
橋本:BONDプロジェクトさんに相談する女の子たちが生きやすくなるために、周りの大人は何をしたら良いのでしょうか?
橘さん:繰り返しになりますが、やっぱり女の子たちが話してくれたときに頭ごなしに責めるのではなく、一緒に考えてくれたらいいなと思いますね。彼女たちは自分にも否があることをわかっていて、そのうえで自分の気持ちを聞いてもらいたくて話しているんだから。
小山:しっかりと耳を傾けるということですね。
橘さん:私もわからないことはわからないと言いながら、継続的に話が聞けるような関係づくりを心がけています。周りの大人にもしっかりと知って、受け止めてほしいですね。
対談を終えて
橋本:BONDプロジェクトさんが幅広いアプローチで、人と人が関わる「空間」を様々な行動を積み重ねて、つくっていっていることに驚きました。問題は想像していたよりも根が深く、私もお話を伺った以上は、きちんと現在の状況についてより深く知り、考えていきます。まずはこういう活動をしている人たちがいるということを、周りに伝えていきたいです。
小山:もしかしたら悩んでいるのかなと思える子がいても、相談に乗ったり力になったりするのは怖いからできないという人が多いのではないでしょうか。私もこれからはもっと関わって、何かできることがあったら動いていきたいと思います。もし、自分にできることがわからなくても、「相談できるところがあるよ」という選択肢を伝えていきます。
※役職等は対談当時のものです
BONDプロジェクトは、2015年2月25日から8月24日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
158人の方から合計68,700円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。