募金券でつくれる未来

社員との対談

第50回 農家のこせがれネットワーク×良品計画 「かっこよくて・感動があって・稼げる」産業に。 第50回 農家のこせがれネットワーク×良品計画 「かっこよくて・感動があって・稼げる」産業に。

社会貢献活動を行う団体の活動を、良品計画の社員との対談を通してお知らせします。第50回は、帰農を考えている方々や新規就農者への支援を通じ、農業の未来をつくっていく活動を行っている、農家のこせがれネットワークさんにお話をお聞きしました。

多くの課題が立ちはだかる「帰農」を考える。

「帰農」とは農家に生まれた子どもたちが、家業である農業を継ぐために実家へ戻ることを指します。現在、農業従事者の平均年齢は約66歳。日本の食文化や産業の根底にある農業を維持していくためには、次世代の担い手が必要とされています。しかし、農業を受け継いでいくためには、収入面をはじめとした多くの課題を解決していかなければいけませんその際に重要となってくるのが、帰農者と生活者など、多くの立場の人々が互いに関わり合いながら考えていくこと。人々が繋がる「場」の提供により、農家のこせがれたちを支えているNPOのお話から、農業と生活者の未来について考えてみましょう。

プロフィール

農家のこせがれネットワーク

農家のこせがれネットワークは、日本の農業の変革を目指し、農家のこせがれ達を中心とした帰農に関する支援を行っているNPO法人です。農業の未来をつくっていくため、農家同士のネットワークを構築する交流会や、農家のこせがれや若手農家・新規就農者と生活者を直接繋げるマルシェ(朝市)など、「場」の提供を中心とした多岐に渡る活動を行っています。

農家のこせがれネットワーク

  • 宮治 勇輔さん

    農家のこせがれネットワーク
    代表理事CEO

    1978年生まれ。株式会社パソナでの経験を経て、実家の養豚業を継ぎ「株式会社みやじ豚」を設立。独自のバーベキューマーケティングにより、2年で神奈川県のトップブランドに。その後、最短最速で日本の農業変革を目指す「農家のこせがれネットワーク」を設立。一次産業をかっこよくて・感動があって・稼げる3K産業にするため、新しい農業標準づくりに取り組む。

  • 宗実 亮

    良品計画
    企画室 経営管理担当

    2002年入社。無印良品アトレ恵比寿に配属後、関東の店舗にてスタッフとして勤務。山梨、長野、群馬の店舗で約5年間店長職を経験し、2012年2月より現職。現在の業務内容は、全社の予算編成、実績管理、各種会議の事務局や決裁業務のサポート等、広範囲に渡る。趣味はジョギング、スイミング。兵庫県姫路市出身。一児の父。

  • 大箸 万里子

    良品計画
    生活雑貨部 H&B担当

    2006年入社。無印良品横浜ジョイナス店に配属後、2008年に川崎ルフロン店で店長に着任。その後、新店オープンを含め3店舗の店長業務を約5年間経験し、2014年2月より現職。現在は、H&B担当のMD開発として、入浴剤・フレグランス用品などの商品開発に携わる。原産地や生産現場を訪ねて商品ができるまでをひとつひとつ勉強しつつ、お客様に喜んでいただけるものづくりを考えて奮闘中の日々。

多くの課題が立ちはだかる「帰農」

こせがれが実家の農産物を
販売する場を都内のマルシェに提供

宗実:農家のこせがれネットワークさんは、帰農の支援を中心に活動されているとお聞きしました。

宮治さん:ええ。帰農とは読んで字の如く、農家で生まれ育ったこせがれが実家に帰り後継ぎとなることを指します。現在、農家の平均年齢はおよそ66歳です。若い人材が求められていますが、一から農業を始めるというのは少し敷居が高いですよね。その点、農家のこせがれは実家に帰れば農地などの資源がありますし、両親の持っているノウハウも活用できます。農家の若返りという意味では、帰農を促進することは、とても有効な解決方法です。

大箸:帰農を阻んでいる要因には、どういったものがあるのでしょうか。

宮治さん:まず大きいのが収入の問題ですね。現在、個人法人問わず、全国で約168万の経営体が農業を営んでいますが、そのうち、59%ほどが年商100万円未満という調査結果が出ています。さらにそこから経費を引いたりしますので、とても専業で生活ができる収入にはなりません。

宗実:逆に言えば、専業で生活ができている人も半分近くいるということでもあると思います。収入面の差というのは、どこから生まれるのでしょうか。

宮治さん:一概には言えませんが、「価格の決定権がない」という問題の影響が大きいでしょうね。基本的には市場に生産した作物を出荷する場合は全て買い上げてもらえます。その代わり、価格は市場に一任することとなります。商品を完売できるので、大規模で効率的に生産する農家にとっては良いのですが、小規模な農家にとっては厳しく作用することも多いです。

宗実:農家のこせがれは、両親のそういった状況を見て育ったわけですよね。なかなか一歩踏み出して農業を始める決心をするのは難しそうです。

宮治さん:活動を始めた当初に予想していた「3大帰農を阻害してる要因」は、「収入が少ない」「仲間がいない」「家族の反対がある」でした。収入面に関しては予想通り、悩んでいるこせがれがとても多いです。身入りが少ないとなると、やはり帰農にあまり良いビジョンを描きにくくなってしまいます。

大箸:実際に活動を続けて、当初の予想と違っていた部分というのもあったのでしょうか。

宮治さん:全国のこせがれに対して調査を行った結果として、意外と「家族の反対がある」というのは大きな阻害要因になっていないことがわかってきています。また、予想以上に大きな影響を与えていると感じているのが、農業に対するイメージの悪さです。

農業へのイメージをひっくり返す

宗実:確かに農業には、肉体的にも収入的にも大変そうなイメージがありますね。

宮治さん:「儲からないのは当然で、農業においてはそれが美徳」なんて記事をメディアで見かけるほど、農業が厳しい仕事だというイメージは広がってしまっています。ネガティブな方向に傾きすぎている、良くない風潮です。

大箸:実際に生計を立てていらっしゃる農家の方も、たくさんいるのに、悪いイメージが先行してしまっている。なぜでしょうか。

宮治さん:農業の仕組みにおける、様々な問題点からでしょうね。例えば、「鹿児島黒豚」「TOKYO X」といったように、ブランドは地域単位で設定されるため、農業界では生産者とお客さまとの繋がりが希薄になっています。

宗実:それでは、自分のつくったものが誰に届いて、どういった評価を受けているのかということについては生活者はもちろん、つくった当人でさえわからないことが多いのですね。

宮治さん:はい。農家の人々には、実際に生産物を食べたお客さまから「美味しい」という声を聞く機会はほとんどありません。フィードバックがないまま商売を進めていかなければいけないんです。

大箸:お客さまの声がない状態では、モチベーションや営業努力に深刻な影響があるように感じます。そういった仕組みから悪いイメージが先行してしまい、ビジョンが描きにくくなり、また農業人口が減っていく・・・良くない流れですね・・・。

宮治さん:長年農業を続けてきたご両親から「農業で生活をするのは難しいから、都会に出て働いたらどうか」と勧められているこせがれも多いんですよね。だからまずは、こせがれ自身の頭にある「農業は儲からない」というイメージを一度ひっくり返す必要があります。

こせがれに、地域に、繋がりをつくる

宗実:帰農の支援として、具体的にどういった活動をされているのでしょうか。

宮治さん:まず大切にしているのが仲間づくりですね。若い農業者だけでなく、異業種との繋がりもつくることで、広い視野で問題解決を図れるネットワークづくりを重視しています。さまざまな環境に身を置く農家のこせがれたちが交流することで、悩みや問題を解決していく後押しになればと思います。

大箸:こせがれの方たちというのは、具体的にどういった悩みを抱えているのですか。

宮治さん:例えば、帰農したいとは考えていても、実家の経営状況や農業についての知識がないことから、困窮しているケースが多いです。そういった方は、農家のこせがれであることだけが参加条件の「こせがれ交流会」に足を運んでもらえれば、似通った境遇のこせがれ仲間や、あるいは過去にそういった問題に直面した経験のある先輩こせがれの話を聞くことができます。中には、そこで仲間に出会って、新しいプロジェクトが動いていくこともあるんですよ。

宗実:こせがれ限定というのがいいですね。近い境遇にいながら違う職業の仲間と出会う機会というのは、とても貴重なものだと思います。

宮治さん:さらに間口を広く設定しているのが「地域交流会」です。食や農、流通に興味がある方であれば、どなたでも参加いただけます。27の都道府県を回りましたが、各地でその地域特有のネットワークが生まれました。

大箸:地域のネットワークが広がると、視野は大きく広がりますよね。実際にその土地に根付いて、商売を成功させている方のやり方を学べるわけですし。他業種とのコラボレーションなんかも面白そうです。

宮治さん:例えば「私はレストランをやっているから、あなたの畑で作った野菜を仕入れたい」という出会いがあれば、取引先がひとつ増えるわけですよね。地域の仲間が増えていくことで、新しいことを始めて、どんどん事業としての範囲が広がっていきます。