ソーシャルグッド事業部 スペースグッド担当部長 河村 玲さん、 無印良品 直江津 美濃口 公尋さん

 「地方創生」「地産地消」という言葉をテレビや新聞で見る機会が増えている中、「地域のために何が出来るのだろう?」と考えてもなかなか思い浮かばず悩んでいる人も多いはず。今回は、「なおえつうみまちアート」の開催をサポートし、直江津の街の賑わい創出につなげたソーシャルグッド事業部の河村さんと無印良品 直江津でなおえつ良品食堂を担当する美濃口さんにお話しいただきました。

■開催までの経緯
 2020年7月にオープンした無印良品 直江津の地域活性化の取り組みは、2019年10月に行われた社内研修「暮らしの編集学校」から始まりました。コミュニティマネージャーの古谷さん、店長の林さんを中心にオープン後も地域の役に立つために様々な取り組みを行っています。
 一方で、まだまだ私たちが取り組めることはたくさんあります。例えば、駅前にある商店街の活性化や、無印良品 直江津やその近隣にある水族館うみがたりにお越しいただいた方々の街中回遊です。これらに繋げるきっかけになる企画を、上越市役所や市民のみなさん、地域の事業者の皆さんと一緒にできないかと考え、「なおえつうみまちアート」を企画しました。単にこの展示会を企画するだけでなく、市役所のみなさんと企画を一緒に考えたり、地元企業に賛同していただくための説明をしたり、多岐に渡るアプローチで実現に至りました。

■直江津と現代アートを結びつける
 どのような街にも、街ができた歴史や街に宿る文化があります。それは直江津も同じで、江戸時代には北前船の寄港地として海運で栄えました。直江津が持つ地域の魅力を引き出し、地域住民の方にもう一度その魅力に目を向けてもらうことで、街にいらっしゃる方が街中を回遊して賑わいを取り戻すことはできないかと考え、現代アートの創造性に着目しました。そして、作品制作や鑑賞を通じて新たな出会いや交流が生まれ、つながりの再構築に繋げていくことを「なおえつうみまちアート」で目指しました。

■当事者を増やすこと
 無印良品は東京都豊島区以外ではよそ者です。よそ者として地域の魅力を発掘し、その魅力を地域住民のみなさんに改めて考えてもらうこと、そして街に対して当事者を増やすことが重要だと考えています。
当事者を増やすことは容易ではありません。街全体の企画なので当然ですが、「なおえつうみまちアート」の趣旨や方向性について様々なご意見をいただきました。それらの意見を調整し、理解していただくには、商売と同じでしっかりと意見をぶつけ合うことが必要です。ですので特に反対意見に対してしっかりと向き合い、真摯に対応することを心掛けました。
 開催直前には、市役所の方と直江津の事業者様を一緒に回り、一軒一軒に声をかけてポスターの掲示やフライヤーの配布をお願いしました。その他にも古谷さんに商店街組合とイベント開催について話し合ってもらい、美濃口さんは飲食店組合の皆さんに「なおえつうみまちアート」の企画趣旨を説明しました。皆で一緒にコミュニケーションを図ることで、直江津のまちなかにブルーのロゴが溢れ、自然と市民ギャラリーが開設されました。勝手連的に商店街や朝市、地域の方々が「なおえつうみまちアート」と連動したイベントを開催し当事者になってくれています。
 多くの人と交わりながら「なおえつうみまちアート」が実現し、コロナ禍でなかなか出かけることができない上越市内のご家族が参加して下さっていることや、直江津の夕陽を生かした作品を見に海岸会場へ多くの方々が集っていることなどは直江津の街に当事者が増えたという意味で大きな成果になったと思います。実際に会場にお越しいただいたお客様からは、「街の変化が嬉しい」というお声をいただきました。「なおえつうみまちアート」の話題性のあるツールや作品を通じて、意見交換の場が増えたことがこの地域の大きな変化だと感じます。何より、地域の方々が街に愛着を持ち、週2回行っている海岸清掃に至っても近隣住民の皆様の参加が徐々に増えているのは、地域の皆様の意識が変わってきているのだと感じています。

■よそ者だから気づくこと
(河村さん)地域に対して、良いとか悪いとか、何かあるとか何もないとか考えずに、常にフラットな目線で地域に入るようにしています。また、地域の人が当たり前になっている素晴らしいところを意識的に探すようにしています。
 2年前に初めて直江津ショッピングセンターエルマールに行った時も、キーテナントが退店していて半分閉まっているのに、1階にあるカフェは満席でした。「あ、ここは地域のコミュニティの場になっているんだなぁ」と感じ、「もう一度多くの人が集まる可能性あるかも!」と思いました。直江津においてエルマールは30年前から皆が集う場だったんです。
また、上越で言えばお米。どの飲食店に行ってもお米が美味しい。その点に着目した古谷さん・美濃口さんは今年から直江津から30分以上かかる中山間地の安塚区の棚田で、なおえつ良品食堂で提供するお米作りを始めました。
(美濃口さん)中山間地での米作りを始めたきっかけは、たまたま立ち寄った飲食店でお米を食べて「美味しい!」と感じたことです。店主に話をきくと、農家さんと直接取引していると聞きました。他のお店でも聞いてみると、同じように農家の方と直接つながっている飲食店が結構あり、農家さんとの距離感が近いと感じ、「良品食堂の米を自分で作れないだろうか」と挑戦意欲が湧き出ました。市役所からお声がけいただき、今では棚田百選に選ばれている農地で耕作をしています。植え方、湧き水の循環、草刈りなど悩む中で、仕入れ前の生産品のストーリーを深く感じています。

■今後の目標
(河村さん) 全世界の無印良品の店舗が、コミュニティセンターとして地域社会に巻き込まれ、自ら社会課題・地域課題の解決や街づくり、地域活性化に貢献できるよう、店舗の皆さんが活用できるプラットフォームを作っていきたいです。そして、ソーシャルグッド事業部は新たな価値を常に創りだしていくチームになっていきます!

(美濃口さん)地域活性化につながるように道路、幹線を利用した食品流通の構造と、立地条件を活かした集荷力や生産者の連携による販売力の強化等の販路開拓動線を設定し、需要に対応した付加価値を重視する市場に向け取り組んでいきたいです。そして、これまで以上に効率的、合理的に運営をさせることで、商品破棄をゼロにした食品流通構造を創っていきたいです。