募金券でつくれる未来
社員との対談
第5回
ジョイセフ×良品計画
~7月11日は世界人口デー~
途上国、そして日本の「リプロダクティブ・ヘルス」を考える。
想像がつくようでつかない、途上国の事情
神宮: 途上国での妊産婦の死亡率の高さは、医療や衛生環境の遅れが原因だと漠然とイメージしていましたが、お話をうかがっていると、それだけでもなさそうですね。
浅村さん: 私たちは、妊産婦の命を危険にさらしてしまう主な原因を「3つの遅れ」と呼んでいます。(1)「認識・決断の遅れ」(2)「搬送の遅れ」(3)「ケア・治療の遅れ」です。神宮さんがおっしゃったのは、3番目の「ケア・治療の遅れ」に含まれますね。3番目の遅れに対応するには、医療設備の整備などと同時に、保健・医療システムを担う人材の育成が必要とされており、ジョイセフも力を入れています。アフリカのザンビアのある地域では、東京都の3倍の面積に医師が1人、助産師が12人しかいない、なんてこともありました。2番目の「搬送の遅れ」も、実は深刻です。日本人の感覚では、妊婦さんの具合が悪くなったとき、かかりつけの病院に車で連れて行くとか、救急車を呼ぶ、というのが一般的ですが、事情がまるで異なります。背負ったり、牛車を出してもらったりして運ぶのです。なおかつ、搬送するのに村長さんの許可が必要なこともあるんですよ。そして、最後になりましたが、1番目の「認識・決断の遅れ」。これは、日本もかつて同じだったと思います。妊婦さん自身が、身体の変調に気づくための基礎的な知識を持っていなかったり、調子が悪いと思っても、家庭内で口に出せないことで、手遅れになってしまうケースです。女性の身体のことなので、夫であっても男性なので言い出しづらかったり、お姑さんには気をつかって言えないなど、女性なら何となく想像できるかもしれません。
神宮: なるほど。これはなかなか一筋縄ではいきませんね。背景にある意識の面がかなり根強い気がします。
浅村さん: 女性の社会的地位が低いことが、かなり影響していますね。ですから時間がかかっても、私たちは女の子が「女の子に生まれてきて良かった」と思える環境づくりをしたいのです。
ジョイセフでは3つの遅れに対応して妊婦さんの「待機ハウス」づくりや「健康教育セッション」、システムづくりを現地のパートナーである行政やNGOとともに展開しています。
「リプロダクティブ・ヘルス」日本は遅れてる?
松木: 今のお話で、日本とは事情が異なることがよくわかりました。一方で、女性の身体のことなので、男性に話しづらいとか、お姑さんにも何となく・・・というのは、日本でも確かにありますよね。
浅村さん: まさにそうなんです。私たちが取り組んでいる「リプロダクティブ・ヘルス」は、何も途上国のみに必要とされているものではありません。また、リプロダクティブ・ヘルスの分野においては、日本は決して先進国とは言えない部分もあるのです。性や生殖に関することは、人間にとってとても重要です。それなのに、どうもオープンに話せない。例えば、日本ほど避妊にコンドームが多く使われている国はないということはご存知ですか。女性が主体的に行える避妊の方法として諸外国では一般的なピルの認可が、日本では極端に遅かったんです。議論が起こりにくいのには、意識面が影響していることが否めないと思います。
神宮: リプロダクティブ・ヘルスというのは、欧米では広く知られた言葉であり概念だと、今回初めて知りました。確かに日本では、性に関して大人が話したがらない傾向が強いですね。反面、子どもたちは、きちんと学ぶことをしないまま、世の中に溢れる情報にふれてしまう。
浅村さん: 日本では、10代の女性が、1日あたり62人も人工妊娠中絶をしています。これは女性にとって、特に精神面で、後々まで非常に大きな負担になります。途上国では危険な人工妊娠中絶により命を落とす若い女性が後を絶ちません。こうした問題を改善するために、「思春期保健」と呼ばれる教育が必要ではないでしょうか。妊産婦に必要な、医療システムや設備を充実させることだけが、リプロダクティブ・ヘルスの取り組みではないのです。
東日本大震災の被災者を思い、途上国から支援が
神宮: 日本での活動ということでは、ジョイセフさんは、東日本大震災の被災地にも入られたんですね。
浅村さん: はい。途上国支援を専門的に行ってきたジョイセフが初めて国内でも活動を展開しました。特に被害の大きかった地域の女性、妊産婦を対象に活動を展開しています。私たちは40年の実績がある団体なので、国内においてもネットワークの強みを持っています。まず、ピンポイントで確実に、ベビーフードやおむつ、マタニティ・生理用品といった必要な物を必要な人に届けることに着手しました。
松木: 出産を控えているときに被災したことを想像すると、どれほど不安かと、本当に胸が痛みます。
浅村さん: そうですよね。被災者はただでさえ不安でしょうし、避難所は、妊婦さんや赤ちゃんにとっては、生活するのに厳しい場所です。そんな中で、かかりつけの病院も被災して、検診や出産を受け入れてもらえなくなった人もいます。私たちは、日本家族計画協会や、日本助産師会と連携して、そうした皆さんが、少しでも安心できるように出産後のケアやサポートへの対応を進めています。
神宮: 途上国からも支援金が届いたと聞きました。
浅村さん: そうなんです。アフガニスタンやベトナムの、私たちの活動している地域の人たちが、数万円のお金を集めて送ってくれました。貧困や紛争などを経験しているからこそ、苦しんでいる人の気持ちがわかると言うのです。生活に余裕がないという点では、彼らの方こそないはずです。金額以上の重みを感じましたし、彼らの気持ちにも応えられるよう、しっかり活かしたいと思いました。ジョイセフは途上国と日本を「つなぐ」役割を担ってゆきたいと考えています。
神宮: 国や文化の違いがあっても、人の痛みに対して、何かしたいという思いは共通しているんですね。
浅村さん: そうですね。ですから、日本の皆さんにも、途上国のことを他人事だとは思ってほしくないんです。身近に感じにくい人もいるかもしれないけれど、人の痛みを感じる心は、世界共通であってほしいです。
神宮: 実は自分はどちらかと言うと他人事と考えてしまうほうでした。それが、今回の震災を受け、良品計画が被災地で子どもたちを対象に行った活動に仕事で同行し、実際の現場を目の当たりにしたことで、何かが変わりました。何もかも援助することはできないけれど、動く中で生まれた人間関係が、新たに動く人をつくっていく、その尊さみたいなものにふれたんですね。
浅村さん: 人とのつながりから得られることの大切さは、私も日々実感しています。途上国の現場も経験していますが、どんなに文化や価値観の違う国の人たちとでも、関わり続けると、人と人としてのおつき合いが生まれ、育ちます。いろんなところに家族や親せきが増えるような感覚です。それは私にとって、この仕事をする上での喜びであり、原動力です。
対談を終えて
神宮: NGOの活動などに関心の薄かった自分が、震災の被災地に赴き、目覚めた直後にこうしてお話ができたのも、何かのご縁でしょうか。気持ちは伝播していく。だから、人と人とのつながりが一番大切なのではないかと、今日はその思いを強くしました。"人の気持ちが伝わるモノづくり"に活かすことができればと思います。
松木: 私にとって、子どもを持ったことは、身ごもった時から、とても幸せな体験だったので、どこの女性でも、そうであることを願います。途上国の人たちが、震災で被災した日本人のためにお金を集めてくれたというお話がありました。国や境遇は大きく異なりますが、私も同じように、人の痛みに寄り添えるようになりたいと思いました。
※役職等は対談当時のものです
ジョイセフは、2011年5月24日から8月23日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
104人の方から合計74,600円の寄付を集めることができました。
また、2014年8月25日から2015年2月24日の期間、
87人の方から合計33,040円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。