募金券でつくれる未来
社員との対談
第19回
カタリバ×良品計画
将来に希望を持ち、
前向きに生きる若者を増やしたい。
本音で向き合えば、本音を引き出せる
松井:私は今、人事で新卒の採用も担当していて、"働くリアル"を伝えることに苦戦しています。ネットでとれる情報は、自分の将来を考える手助けには、あまりならない気がしますね。少し先を歩いている先輩の、やっておいて良かったこと、やれば良かったと後悔したこと、といった、それこそリアルな葛藤を聞くほうが、よっぽど気づきにつながるのではないでしょうか。
山内さん:はい。カタリ場の後、「大事なことに気づいた」「進路についてもっとちゃんと考えようと思った」といった感想をたくさんもらいます。先生からも、「生徒を評価する立場の自分たちには相談しづらいことも話せて、子どもたちが心を開いていると感じました」と言ってもらえることが多いです。私も大学時代にカタリバのボランティアスタッフを経験して、こちらが本音で向き合えば、あちらだって本音を見せてくれることを学びました。もちろんすべての生徒ではないにしても、大勢の中の何人かでも、そんな本音ベースのコミュニケーションを通して可能性を見つけてくれればいいと思うんです。
松井:良品計画は職業体験学習を行う高校生の受け入れをしていて、私たちも高校生を前に話をすることがあります。発見したのは、利害関係のない相手に話をきいてもらうことのむずかしさ。それと、山内さんがおっしゃったように、本音で話すことが相手の気持ちをとらえるんだということです。私が実際に体験したのは、仕事のあるべき論のようなことを話しても、ぜんぜん聞いてくれなくて、大半の子が突っ伏して寝ているような状態なのに、個人的なエピソードとして、「あのときの仕事はしんどかった」「あれは失敗だった」のような、生々しい話題になると、とたんに興味を持ってくれたことです。面白いのは、日ごろプレゼン慣れしている人とか、話すことに自信があるスタッフの方が、かえって凹んで帰って来ることです。高校生にはちっとも話をきいてもらえなかったって(笑)。
山内さん:カタリバでは、ボランティアの大学生に何度か研修を受けてもらった上で授業に臨んでもらいますが、研修では、「高校生目線」で考えてもらうワークショップがあります。上から目線が禁物なのは言うまでもありませんが、不完全で、悩んでいる姿も見せる方が、むしろ共感されることって、多いんですよ。
松井:納得です。
何でも用意されている時代が、見えなくしているもの
片木:あと、若い世代は、「体験<情報」にならざるをえない時代に生きていますから、ネットでとれるような情報であれば、わざわざ対面して、与えてもらう必要がない。そうではなく、個々の体験に基づいた"リアル"な話を聞きたいんじゃないですか。ちょっと横道に逸れますが、僕らの時代はケータイもネットもなかった。今と比較するとそれは、例えば恋愛においても障害ですよね。彼女に一本電話するにしても、相手のおうちの固定電話です。まずいタイミングで電話をして相手の親に疎まれたりしないように時間を選んだり、どんな感じであいさつしたら好感を持たれるかとか、とにかく一生懸命想像したり、工夫したり、戦略を立てた。ちょっと卑近な例ではありましたが(笑)、僕なんかはあれでずいぶん鍛えられて、きっと仕事にだって、そこで培われたものが生きてます!いつでも情報にアクセスできるということは、効率的な選択を可能にするとは思うのですが、反面、想像力を駆使したり、試行錯誤を通して得られる学びが少なくなっちゃうんじゃないですかね。
山内さん:そうかもしれませんね。検索すればなんでもわかる時代、本当にわかっているかは別にして、情報としての正解は、すぐに得られます。何でも揃っていて、与えられるのに慣れた世代は、自ら求めて積極的に行動しないと、試行錯誤する体験をしたりあれこれ考えたりする機会が持ちづらくなっているかもしれません。
松井:情報もモノも有り余るような時代が、高校生たちとって、実は逆につらい状況を生んでいる側面もあるんじゃないですかね。今の時代を選んで生まれたわけではないですから、かえってかわいそうだと思うこともあります。
山内さん:実は、被災地の子どもたちを見ていると、そう思わされることがあります。宮城県女川町と岩手県大槌町に、東日本大震災の後、私たちが立ち上げた"コラボ・スクール"が1校ずつあります。放課後の学習指導をしていて、集中して学習する環境を失った、小中学生、高校生が通ってきます。家が流されたり、塾が流されるなどした子も多い地区で、昨年は特に、受験を控えた中3の生徒たちに対しては力を入れました。あまりに過酷でつらい経験をしたため、当初は精神的にも勉強に集中できるような状態でない生徒もいましたが、やがて、「避難所生活で出会った看護師さんのような、人を助けることのできる仕事に就きたい」「福祉の仕事でお年寄りのために働きたい」と口にして、「だから一生懸命頑張る」と話す子も出てきました。1年後、生徒の98%は第一志望校に合格しました。将来の夢ができたことが、希望となり、生きる力になっていったんですね。
片木:火がついた・・・。
山内さん:まさに、そうです。突然にいろんなものを奪われた被災地の子どもたち。生きる環境は、格段に悪化したはずなんです。それなのに、少なくとも目で見る限り、環境も条件も揃っている東京の同年代の子よりも、力強さのようなものが感じられることがあります。これは何なんだろうと思いますね。情報もモノも、溢れるようにあることが、本当に必要なことを見つけにくくしているのかもしれません。被災した子どもたちは、日常を失ったからこそ、日常のありがたみがわかる。私たちの社会が持っている課題の、ひとつのヒントにはなる気がします。
松井:あぁ、それは考えさせられますね・・・。
ココロに火がつけば、いろんな可能性が見えてくる
山内さん:もうひとつ例を挙げると、ハリケーンで壊滅的な被害を受けたニューオーリンズ。現在、多くの起業家が輩出され、アメリカでもイノベーションが活発に起きている地域らしいんです。
片木:そうなんですか。日本の被災地でももしかして・・・と、少し希望がわきますね。
山内さん:はい。被災地の子どもたちは、とんでもなく辛く、悲しい思いをしたけれど、その経験に向き合って、乗り越えることができれば、誰よりもやさしく強い大人へと成長できるはずです。彼らには、「震災があったから、夢をあきらめた・・・」という思いを抱いてほしくありません。震災を"悲しみ"から"強さ"へと変えるための学習機会をつくっていくのが、私たちの使命であり、それが私たちが被災地で活動を始めた理由でもあります。
松井:先ほどの、「火がついた」学生さんたちのお話を聞く限り、すでに成果のきざしが見えていますね。
山内さん:最初に触れましたが、彼らは、一度火がつくと、パワフルに回り出すんです。コラボ・スクールの卒業生の中には、「(津波により)町には何もなくなってしまったから、もっといい町にするためにどうしたら良いか考えたい」とか、「後輩に自分の経験を役立ててもらいたい」と言って、今度は支援する側に進もうとする高校生もいます。カタリバとしても、今後は、彼らに復興の担い手になってもらうためのサポートをしていきたいと考えています。
片木:自分に自信がついて、周りを見る力が出てくると、いろんな可能性が生まれてきますもんね。
山内さん:被災地の高校生に、外国人の支援者を対象にしたボランティアツアーのガイド役をやってもらう計画なんかもあるんですよ。グローバルに活躍できる力をつけてもらう訓練として。
松井:すごい。悲しいところばかり見てしまっていましたが、希望のあるお話がきけました。
山内さん:私たちは今、「生き抜く力」とは何かを、議論しているところなんです。それはもちろん、被災地に限ったことではありません。高校生をずっと見てきて、彼らの生きづらさの背景にあるものを考えてきましたが、どんな環境にいる子どもたちも、「こんな大人になりたい」という憧れや、「未来は、自分たちで創っていける」という感覚、そして心に火がついた彼らがチャレンジできる機会さえあれば、生き生きと成長していけると思うようになりました。前述した被災地の学生たちはもちろん、活動を通して出会ってきた高校生は、私たちの社会が、今、何を必要としているのかを教えてくれている気もします。
対談を終えて
片木:大事なのは人と人とのつながりだと再認識しました。社会はつながりでできていますが、つながりって、自分本位ではできないものですもんね。僕らの仕事でいうと、お客さまとのつながり、従業員同士のつながり・・・。カタリバさんの活動は、人とのリアルなコミュニケーションの中にある価値を伝え、活かしていく活動でもあるのではないかと思います。やっていることは異なりますが、それは僕らの仕事にも応用できるし、共通点が多いと思いました。
松井:今日のキーワードは「火をつける」だったと思います。私は、会社の大事なメンバーに火をつけなくてはならない立場で、その難しさも痛いほどわかっています。いかにして火をつけるかは、今もチャレンジの最中ですが、周囲に火をつけることのできる人材を育て、ひとり、ふたりと増やしていきたい。やる気のある大人がたくさんいることが、社会の活力につながるはず。若者に、そうした大人の姿を見せることも、大事なことだと思います。
※役職等は対談当時のものです
カタリバは、2012年8月24日から11月25日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
55人の方から合計15,150円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。