募金券でつくれる未来
社員との対談
第33回 ふくしまインドアパーク×良品計画 福島を通して考える、子供の"遊び"の大切さ。
日本の子どもの"遊びの危機"
榊原:自分もこの年齢になって、地域のつながりというものを意識するようになりました。お祭りなんかでも、地域のみんながいっしょに盛り上がっている姿を見ると、すごくいいなぁ、と思います。震災のとき、助け合いや防災面でクローズアップされましたが、子育ての問題だって、かなりの部分で地域の問題とリンクしていますよね。それって被災地だけの問題ではない。
今給黎さん:その通りです。だから私たちは、福島という被災地で活動しながらいつも言っているんです。震災があって、日本の抱えるあらゆる問題があらわになってきたと。子育てを取り巻く問題もしかりです。
中田:地域コミュニティが機能しなくなってきたのは、むしろ東京のような都会のほうが深刻ですしね。都会にははなから子どもの遊び場だって少ない。
今給黎さん:そう、そこにつながっていくんです。だから私たちには、日本の、多くの子どもたちにとって、「遊び」の危機だということに、福島を通して気づいてもらいたい思いがあります。東京が福島ほど自然豊かでないのは言うまでもありませんが、単に遊ぶスペースの問題でもなく、親が子どもの遊びに対してネガティブな意識を持っている。ほら、よく言う「遊んでばっかり!」に代表されるような。けれど遊びって、本当に大事なものなんです。ごっこ遊びで創造力を培い、友だちと遊ぶことでコミュニケーション能力の基礎を学びます。遊びは子どもにとって、欠かすことができない成長の源です。
中田:それ、ものすごくわかります!うちの上の子は今4歳ですが、そりゃあもう「遊んでばっかり」で(笑)。でも私はそれでいいと思っているんです。だって、子どもをよく見ていると、たくさん遊んだあと新しい言葉を覚えていたり、近所に顔見知りが増えていたり、あぁ、こうやって、コミュニケーション力なんかも育まれていくんだなぁって気づくんですよ。学校の勉強とは異なる、立派な学習だと。
今給黎さん:そういうお話を聞くと嬉しくなりますね。もう、2、3歳から「勉強」することを求められる子どもたちが、今はたくさんいます。習い事だってその年から通ってますしね。それ自体がいけないというより、遊びを大切にしないことに対する危機感を伝えたい。
子どもたち同士が知り合えない!?
榊原:そうそう、ふと、小さいころ、近所の原っぱにみんながわらわらと集まってきてサッカーしたなぁ、なんて思い出すと、今の子どもたちって、どうやって知り合うのかな、と素朴な疑問がわいたりして。都会じゃ原っぱないよなぁって。
今給黎さん:親同士がアポをとって遊びに行ったりとか・・・。
榊原:ええぇ!そうなんですか?
今給黎さん:そればかりではないにしろ、ありますね。
榊原:自分は一人暮らしで、ご多聞にもれず、近所にどんな人が住んでいるかをよく知りません。でも、特に都会って、子どもだってそうなっちゃいますよね。幼稚園や小学校も、みんなが地域のそれに通うわけじゃないでしょう。
今給黎さん:そうなんですよね。そればかりか学校で、「知らない人に挨拶してはいけません」と指導される時代です。
榊原:そうなんですか!?地域社会以前の話ですね・・・。悲しいです。
中田:私は横浜に住んでいますが、幸運なことに近所づきあいがまだ生きている地域でして、子どもが近所のいろんな大人を知っているんですよ。子ども同士が友だちになったり、外で遊んでるから近隣の大人に覚えられたり、妻も現在は家にいるので、さらにお母さん同士のつながりができるといった具合に広がっています。家族の中では、私が一番ご近所を知らないし、私のことも知られていないでしょうね(笑)。
今給黎さん:いい地域にお住まいですね。昔と違って、新たな住民の流入も、大型のタワーマンションがどーんと建ったりして一気に起きたりしますから、住民同士の分断が生じて問題になることもあるんですよね。
榊原:そうか・・・。福島のことから、都市型の問題に話が移ってきましたが、先ほどおっしゃった、震災を機に日本の抱える問題があらわになった、ということの一端を見た気がします。
震災以降、日本人は価値観を問われている
今給黎さん:フローレンス自体がもともと、子育ての問題というと、女性の仕事との両立にばかり議論が流れていくことに違和感を持っていて、だから、子育て支援というより、子育てをしづらい社会環境に問題意識を置いている団体なんです。子育てを取り巻く問題は、家族の問題であり、地域の問題であり、雇用をめぐる問題でもあり、もっというと、日本人の生き方とか価値観の問題でもあるはずなんです。
中田:ワークライフバランスも、まさにそうですもんね。
今給黎さん:はい、まさに。繰り返しですが、震災によって、私たち日本人の価値観を問うような問題があらわになりました。福島はその象徴的な場所なんだと思うんです。考えさせられることがたくさんあります。
榊原:そういうことだ。すごく腹に落ちた気がします。
中田:子どもを持つ親としても、思うところがありますね。
榊原:今給黎さんは企業からフローレンスさんに転職されたそうですが、なんとかしなくてはという危機感が強かったんですか。
今給黎さん:いえいえ、自分自身はそんなに熱い人間でもなく(笑)。自分も子育てしながら身近にいろんな理不尽を感じることがあって、そういうことに対して何かできればいいな、との思いでした。基本的には今も変わりませんね。それに、自分の中では、企業で仕事をすることとの違いはあまりないんです。そこに課題があるからニーズがあって、応えるために限られた資源の中でできることを考える。NPOだって、世の中に期待される分のパフォーマンスを出していかないと淘汰されます。「いいことやっているから」と甘えていてはいけない。フローレンスでは、代表をはじめ、スタッフにその意識が共有されているから、私自身、ここで頑張ることができると思っています。
対談を終えて
榊原:震災によって、日本の社会の問題があらわになった、というのがとても印象的でした。お話をしているうちに、本当にそうだな、とじわじわ思いました。自分は企業でしか働いたことがなかったので、これまでは、NPOの人たちの気持ちがわかるようでわからないようなところがありました。なかなか自分に重ねて考えることができなかったのですが、今日でぐんと身近になった気もします。今給黎さんが、(企業で仕事をすることと)非営利での仕事もあまり違いがないとおっしゃっていたことも、納得できましたね。
中田:日常の中で、実は自分の真横にあるような問題に気づかされ、思いをめぐらせる時間でした。震災を機に露呈したそれらの問題には、本来は、日常の中でこそ取り組まなくてはならないはずなのに、いかに手当てされずにきてしまったか。自分にも思い当たることがあり、特にワークライフバランスの、本当の意味での重要性を改めて考えさせられました。こうして、異なるフィールドで頑張っている方とお話しするのはいいですね。すごく刺激になりました。
※役職等は対談当時のものです
ふくしまインドアパークは、2013年8月26日から11月24日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
108人の方から合計41,240円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。