募金券でつくれる未来

社員との対談

第41回 共存の森ネットワーク×良品計画 世代と世代、人と自然、つないで未来を考える。 第41回 共存の森ネットワーク×良品計画 世代と世代、人と自然、つないで未来を考える。

人と人、人と自然、世代と世代をつなぐ

小松原:人と自然をつなぐだけではなく、違う地域や世代の人たちをつなぐということが活動のテーマとなっているのでしょうか。

吉野さん:私たちの活動は一貫して世代間の交流がベースとなっています。環境問題は長いスパンで考える必要がありますが、今のほとんどの人が先祖とも、次の世代ともつながりが途絶えてしまっているので。

吉本:確かに、目先にとらわれることが多いのが現状です。世代を超えるような長い時間でものを考えることは少なくなりました。

吉野さん:たとえば、杉や檜の人工林は、100年近く育ててやっと切ることができます。そういった木を育てる名人たちは、木を植えてくれた先祖への感謝の気持ちを持っています。逆に言うと、今、植えるということは100年先を生きる世代を考えるということなんです。

小松原:世代間のつながりを修復していかないと、100年単位で環境問題を考えることがどんどん難しくなっていくんですね。

吉野さん:聞き書きに参加し、名人の話を懸命に聞くことは、名人たちの考え方の深い理解につながります。その体験を経た参加者たちは、名人と同じ長いスパンで物事を見られるようになるんです。

吉本:自分と違う価値観を深く理解し、共感までたどり着く。視野が大幅に広がる、貴重な体験ですね。

吉野さん:自分の祖父のことも考えるようになるし、たとえば満員電車の中で、大きな荷物を持ったおばあさんにも目がいくようになります。自分のことや目先のことに精いっぱいだった子たちの肩の力がふっと抜けるんですよ。人に思いやりをもつことで、環境問題に対してもいろいろな角度から意識するようになります。

「自然との付き合い方」というテーマ

吉本:聞き書きだけでなく、実際にフィールドでの活動もされているのですよね。

吉野さん:はい。都会の子が多いので、フィールドでの活動を始めた当初は、里山に連れていっても森の中へ入っていくことすらできませんでした。そこで、まずは里山保全の専門家に指導してもらい、木の名前を覚えたり遊歩道の整備をしてみたりといったことから始めました。ところが、1年ほど活動を続けて、植物のことも少し分かるようになったときに、ある女の子が「何かが違う」と言い出したんです。

小松原:「何かが違う」・・・。活動に違和感を持ったのでしょうか。

吉野さん:学生たちは、貴重な自然をただ守る活動よりも、名人から聞いた炭焼きのような、人と自然がより良い形で共存していける方法を学びたかったんですね。聞き書きによって名人から、自然は人の暮らしに結びついているもので、人が手を入れることで自然も豊かになると学んできた影響ですね。

小松原:その認識を共有できているのは、すごいことですね。

吉野さん:初めて知ったときには、目から鱗が落ちるように感じていたようです。長いスパンで「自然と付き合っていく」ことの意味にも気づくことになります。

吉本:「自然と共存していく方法を学びたい」という気づきから、活動に変化はありましたか。

吉野さん:ちょうどそのとき訪れた里山が、地域の暮らしとのつながりがほとんど切れてしまっていた山だったんです。そこで、その里山が地域の人にとってどういう場所だったのか、地元の方々に話を聞いて回ることになりました。するとだんだんに、「そんなに勉強してみたいなら、1回炭を焼いてみる?」とか「山菜の場所を教えてあげようか」なんて話になったんです。

小松原:熱意が伝わって、動き始めたんですね。

吉野さん:ええ。フィールドでの活動は今でも、そういったものが多いです。まずは、地元の方から、地域の歴史や文化、そして地域の暮らしや里山に対する想いを学びます。一方通行にただ学ぶだけでなく、その地域の人の誇りや想いに共感し、何が課題なのかを一緒になって考えるんです。その結果見つかった「私たちにできること」が、多くの学びに対する地域の皆さんへの恩返しにつながるのが、一番いい結果だと考えています。

新しい生き方を模索する若者たち

小松原:10年近く活動を続けてこられて、若者の環境に対する意識は変わってきていますか。

吉野さん:一般的に今の若い人たちは地球温暖化や森林破壊についての知識は豊富です。しかし、それが自分の暮らしとどうつながっているのか、自分はどうしたらいいのかといったことになるとわかりません。聞き書きを経験すると自然が身近になり、森を見る目が養われます。

吉本:森の環境が変わってきたという名人の話から、温暖化などの地球規模の問題が自分の生活とうまくつなげられるようになるということでしょうか。

吉野さん:大量生産、大量消費を前提とした都市の暮らしは環境に負荷をかけています。名人の暮らしや思いを知ると、自然と切り離された今の暮らしに疑問を持ち始めるようです。

吉本:確かに少し前の世代だと、経済的な豊かさが人生の豊かさといった考え方をしがちです。今の若い世代は、生まれたときから不景気の時代しか知らないので、価値観がまた少し違うのかもしれません。

吉野さん:自分で食べる野菜ぐらい自分でつくってみたい。木造の家屋やまきストーブに憧れるなど、里山と結び付くものに価値を見出すように変わってきていますね。すべて昔の暮らしに戻ることはできませんが、かつての日本人が持っていた今とは違う豊かさと、現代の生活とに折り合いをつけることで、環境に負担をかけない、安心な暮らしをつくることができればと考えているようです。

小松原:農村地帯では若者の減少が問題になっています。後継者問題も含め、人口が減ってしまい消滅するような村を何とかしたいという声も若者の間でありますか。

吉野さん:はい。実際に、共存の森ネットワークの活動に参加したことがきっかけで、過疎化のすすむ地域へIターンした子もいます。地方では高齢化がすすんでいるところもありますが、10歳以下の子どもの人口を見てみると、増えている地域と減っている地域がモザイク状になっていて、必ずしもすべての農山村の未来が悲観的ではないという研究もあります。地方だからといって、そう簡単には消滅しないのではないでしょうか。

吉本:Iターン、ちょっと憧れます。

吉野さん:特に震災以降、それぞれに得意な分野を生かし、村の仕事、たとえば村人総出の草刈りや祭りの準備などの役割も積極的に引き受けながら、シンプルな生活を送る若い移住者が増えているようです。派手さよりも、ムダを省く生き方。無印良品さんの商品コンセプトにも近いものを感じているのですが。

社会とのつながりもつくりたい

小松原:たしかに「ムダを省き余計な物をつくらない」「ありのままでシンプルに」というのは無印良品のコンセプトです。

吉野さん:それは、今の若い子たちの価値観に通じるものがあると思います。今度、ぜひ共存の森ネットワークの学生たちに話をしにきてください。目の前の品物ができるまでの物語やつくり手の思いを若い世代に伝えてほしい。対話することを通して、それを一緒に考えてもらうことで、彼ら若い世代がに社会にコミットする機会をつくりたいと思っています。

小松原:モノがあふれ、欲しいものはすぐ買える時代で、なかなかものづくりのストーリーは見えにくいですよね。先ほどもおっしゃっていた、社会の中で世代をつなぐことにもなるのかもしれません。

吉野さん:そうだと思います。逆に、大人も子どもたちの話をちゃんと聞かないといけません。私自身、世代間のコミュニケーションは、過去を知るだけではなく、未来を考える上でも重要だと気づきました。

吉本:お話を聞くと、私たちの世代が思うほど、今の若い世代は心配する必要はないのですね。

吉野さん:きちんと考えている若い世代はたくさんいます。震災以後、日本社会は大きな転換点を迎えていると感じているのです。10代、20代の子たちが何に迷い、何に奮闘し、本当はどんな暮らしを望んでいるのかを聞いて、彼らと一緒に歩んでいかなければと思っています。

対談を終えて

小松原:人と人、森と人、いろいろな世代、そして全国各地の人々、それぞれがつながることができる、多様な面を持つ活動なのだと思いました。コミュニケーションの取り方を変えることで、これからもっと活動が広がっていきそうな、大きな可能性を秘めていると感じています。

吉本:話を伺うまでは、自然破壊から環境を守る活動かと思っていました。人の仕事を通じて世代間のつながりを復活させ、やがては次の世代へとつなげていく活動と知り、その切り口がとてもおもしろいと思いました。私も聞き書き甲子園に参加してみたいです。

※役職等は対談当時のものです

共存の森ネットワークは、2014年8月25日から2015年2月24日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
171人の方から合計70,500円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。

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