募金券でつくれる未来
社員との対談
第55回 ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ×良品計画 差別、偏見、孤独のない社会へ。
思い込みや偏見を取り払う「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」
白幡:ご活動の中心となっている「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」について教えてください。
志村さん:「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は世界39ヶ国で実施している、暗闇の中で対話を行うプログラムです。暗闇の中では視覚に頼ることができなくなるため、性別や年齢などの差異が薄れ、偏見のない、ニュートラルな状態で対話が行えます。また、暗闇を案内してくれるのは視覚障がい者のスタッフです。普段は助けなければいけない、弱い人と思われがちな方がリーダーシップを発揮している場に参加することで、日常生活の中で知らず身に着いてしまった思い込みや偏見が取り払われます。
長坂:暗闇の中で、どのようなことをするのでしょうか。
志村さん:プログラムは毎回変わるのですが、たとえば企業研修バージョンですと、まず、参加者一人ひとりがスタッフから部品を手渡されます。チーム全員の部品を組み立ててひとつのものを完成させなければいけないのですが、手渡された部品は自分以外の人に触らせてはいけないルールになっています。そのため、触った感触などを説明し、情報を整理しながら、何をどのように組み立てるのかを想像し、話しあう必要があります。完成図の想像がついたのになかなか発言できない人や、逆に堂々と発言しているけど本当は何の想像もついていないという人など、対応にはそれぞれの人間性がはっきりと表れます。
白幡:クセや性格がはっきりと出るのは、暗闇だからこその効果ということですよね。
志村さん:はい。暗闇の中では、その人の素直な人間性がとても発現しやすくなるんです。私は本業がセラピストなのですが、人のクセは半年以上の時間を費やしてもなかなか直らないものです。ところが暗闇だと、短時間で自分自身のクセが見えるようになりますし、時には1日、2日でそのクセを直すことさえできるんです。
長坂:経験された方というのは、どういうことを感じるのでしょうか。
志村さん:企業研修の場合は、コミュニケーションやリーダーシップの育成にとても効果があるようです。チームで体験すると、特にリーダーの人の弱い部分や苦手な部分が、メンバーの一人ひとりに伝わるんですね。すると、それぞれができないことを補い合うために動くようになって、全員がリーダーシップを発揮したり、情報の共有を促すようになったりします。
白幡:店舗のスタッフ全員で行きたいですね。対話を行って意思統一をしたいとは常日頃思っているのですが、「そのために何をするべきか」という問いの答えを見つけ出すのは難しいですし、まして研修のようなプログラムを開発するとなると、なかなかできることではありません。
志村さん:目の見えない人と見える人がいるように、人にはできること、できないことがあります。それを認めあうことこそが、多様性を認めるということなんです。仲間の個性を知ることで、立場や性別にとらわれない、多様性を尊重できるチームになっていくんです。それはもちろん仕事だけではなく、あらゆる面で人を受け入れることにつながります。経験した人は「私、自分のことが好きだなあ」と思うそうです。他者を認めることは、自分自身をしっかりと認めて、受け入れることにつながっていきます。
障がい者ならではの能力を活かした商品開発
長坂:障がい者のスタッフが多くいらっしゃるそうですが、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」以外ではどのような活躍をされているのでしょうか。
志村さん:代表的なものとしては、目が見えない方特有の、指先や肌の鋭敏な感覚を生かした商品開発を行っています。たとえば目が見えないスタッフに、何回も洗濯を繰り返したり、入浴後に体を拭いてもらった感想を元に、今治タオルの商品開発を行いました。肌触りが素晴らしく良く、グッドデザイン賞をいただきました。他にも、目が見えない人は唇や手に触れる感覚を大切にしているから、食器へのこだわりがとても強いのですが、そのこだわりの感覚を活かして、会津漆器の職人さんたちと連携して食器の商品開発を行いました。持ったときに手になじみ、盛りつけた食事を口に入れるときにさえ心地よい、そんな肌触りの食器です。こちらは木製なので、ウッドデザイン賞というものをいただきました。
白幡:商品開発にその鋭敏な感覚を結びつけることが、まず凄いと思います。どういったきっかけで動き出したのでしょうか。
志村さん:視覚障がい者のスタッフたちと海に行ったときの経験がきっかけになっています。大勢で貝殻を拾ったりして遊んでいたのですが、そのとき、一人の男性が私の手のひらに、指先ぐらいの大きさの小石を渡してくれました。すごくつるつるで、今まで触ったことのないとても気持ちのいい感触でした。どうやって探したのかを聞いてみたら「指で触って探したんだよ」と言っていました。そのお話をたまたまタオルメーカーの方に話したら「その感覚が欲しい!」という申し出をいただいて、今治タオルの商品開発プロジェクトが動き出したんです。
長坂:良品計画でも「お客様の声から生まれた商品」という企画を行っています。どの立場の方の声を聞くかというのは、とても大事なことです。それにしても、目の見えない方というのは指先の感覚がそんなにも鋭敏なんですね。
志村さん:指先の感覚だけではなく、空間把握力もすごいです。こんなこともありました。私はかなりの方向音痴なので、視覚障がい者のスタッフとどこかに行くときに、道に迷ってしまうことがあります。関わり始めた当初の頃は、迷ったということがとても言いにくくて・・・すると、視覚障がい者のスタッフから「2回同じところ行ってない?」と言われてしまって。
白幡:自分がどういう場所にいるかが、ちゃんとわかっているんですね。
志村さん:はい。ビルから吹く風、日当たり、匂い、圧迫感や音の反響などを総合的に判断して、自分にいる場所や方角がわかるのだそうです。今では私は目だけ貸して、道案内はお任せしています。関わってみないと、こういった能力についてもわからないですよね。障がい者の方が持つ能力を知ることができるのも、対話が生む成果のひとつだと思っています。
参加者に伝わった気持ちが、社会を変えていく
長坂:「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」が始まってから17年。変化や手応えというのは感じられていますか。
志村さん:これまで、通算17万人ほどの方が「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」に参加されました。参加された方は、目が見えない人にも出会いましたし、そうした障がいのある方への偏見がだいぶなくなっているはずなんです。実際、公共の場で障がい者の方に声をかけることができるようになったという声は多く聞いています。「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を続けていくことで、対話をすることが世の中に着実に広がってきていると感じています。
白幡:対話が大切だとわかっていても、なかなか一歩を踏み出せない人というのもいますよね。そういった方に知ってほしいことはありますか。
志村さん:対話という言葉を使うと少し難しく感じてしまうかもしれませんが、普段からみなさんがやっている会話の中に、対話は既にあると思うんです。ポイントになってくるのは、自分と他の人との違いや自分が思っている素直な気持ちを、安心して言葉にしていい、対等に話せる場をつくることです。差別や偏見がないというのは、あらゆる人にとって本来とても楽な状態です。そう考えると本当は対話というものは、とてもハードルがとても低いものだと思いますし、色々な人にそう感じてもらえたら嬉しいです。
長坂:「対話」という目に見えない事柄を扱うからこそ、成果が見えづらいですよね。けれども、多様性を尊重していこうという動きが緩やかに世の中に広がっているような感覚が私にもあります。
志村さん:私は、世の中を変えるイノベーションというのは、沸点までは成果が見えないものだと思っているんです。お湯が沸騰するときって、小さな泡が出ていたと思っていたら、いきなり沸きはじめますよね。今はその小さな泡が日本中、世界中で出ている状態なんだと思います。色々な人たちの気持ちがつながって、やがて大きな社会の変化になる日がきっと来ます。その日を楽しみにしながら、これからも対話の場づくりに貢献していきます。
対談を終えて
長坂:ホームページを拝見して、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の具体的なプログラムの内容や、暗闇の対話が人に及ぼす変化に興味を感じていました。今日はそのあたりのお話をじっくりとお伺いできて、とても勉強になりました。お話を伺う前は、いざ自分が参加するということを想像すると少し尻込みしてしまうところがあったのですが、自分の弱い部分を知ることによる変化を体験できる機会と知り、参加してみたいと強く思いました。貴重なお話、ありがとうございました。
白幡:店長として、スタッフとの対話についての改善などのヒントを求めて、今日はお話をお伺いさせていただきました。普段働いているときには、「社員として、店長として」という考えが先行してしまい、弱みを見せないようにしてしまいます。けれども、弱い部分をさらけ出してお互いを理解しあうことこそが、手を取りあって一緒にがんばっていくことにつながっていくのだと、あらためて感じました。今回お話をお伺いして感じたことを、今後はぜひ実践していこうと思います。暗闇の中での対話も、機会があればぜひ体験してみたいです。
※役職等は対談当時のものです
ダイアローグ・ジャパン・ソサエティは、2016年2月24日から8月23日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
71人の方から合計30,650円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。