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社員との対談

第56回 環境リレーションズ研究所×良品計画 記念樹とともに、森と地域の元気を育てる 第56回 環境リレーションズ研究所×良品計画 記念樹とともに、森と地域の元気を育てる

共感が「自分ごと」につながっていく

林:私は普段、国産材を活用した家具の開発などを行っていますが、一般の方々に国産材を使うことの価値を伝えることの難しさも常日頃感じています。国産材を使うことが森林の保護につながり、巡り巡って私たちの生活につながっていくということを伝えて、「自分ごと」として捉えていただくことが、とても大切なことだと思います。

平沢さん:他人事だと感じているうちは、行動に移すのがなかなか難しいですよね。私たちも「なぜこの土地に樹を植えるのか」「なぜこの樹種なのか」という、背景にあるストーリーを伝えることによって共感を生み、より具体的に問題を捉えていただけると思っています。

小林:森づくりをする理由というのは、どういったものなのでしょうか。

平沢さん:地域によって様々ですが、基本的には地元植生の広葉樹数種を混植して、その土地の元々の自然の森に戻すことが目的です。たとえば山梨県では、マツクイムシ被害で荒廃したアカマツ人工林の枯損木を伐採して、その代わりに広葉樹を植えて里山に戻す活動を行っています。他に、岩手県の宮古市では、自然の力では森に遷移できない放牧地跡で、川の水源になる森づくりをしています。これは森が育む栄養のある水が川から海にそそぎ込み豊かな漁場を守るという観点から、宮古市の復興を支える一助ともなります。また、このようなストーリーを伝えるためのリーフレットも作成しています。

林:地域によってリーフレットの絵柄を変えているんですね。宮古はサケですか。面白い!

平沢さん:実は本州で一番サケの漁獲量が多いのが宮古市なんです。そのため、マークはサケの形で、ウロコが現地で植えている広葉樹の葉っぱ。カードの色はサーモンピンクとしています。他にも鳴子温泉で有名な宮城県の大崎市では名産品のこけしを打ち出す絵にしたり、地域に合わせてシンボルになるものをアイコン化しています。

小林:「興味はあるけど、何をしていいかわからない」という方々が一歩を踏み出すためには、きっかけが必要になります。こういう形でストーリーがわかりやすく伝わると、なんだか背中を押されますよね。

平沢さん:絵というものは直観的にイメージが伝わりますよね。背景にある少し堅苦しいストーリーに考えを至らせるのは難しくても、絵を見てかわいいと感じていただければ、それがきっかけで興味をもって下さると思うんです。身近に感じていただく機会をさまざまなかたちで提供することで、「環境のために何かしたい」という気持ちを抱えた方々の背中を押すことができるのではないかと考えています。

地域振興が、やがて森の潤いに

小林:植樹地でのイベントなども行っているんですよね。各地域の方々との協働されるご活動を10年以上続けられてそういったハードルを感じられた体験はありましたか。

平沢さん:活動が動き出すまでは、いつも難しさを感じます。というのも、地域の方々からしたら、いきなり見ず知らずのよそ者がやってきて「あなたの土地に植林させてください」と言っているという状態なんですよね。まして、植えた樹を1本1本管理するというのは、一般的な森林施業者さんは行わない作業です。その状態から企画を動かすには、まず互いを深く理解し合う必要があります。これは正直、あまり簡単なことではありません。

林:私も木材調達の際に、同じことで苦労をしたことがあります。まず仲良くなっていく必要がありますよね。その土地で暮らす人のくらしは、現地の方と膝をつきあわせて話をすることで、やっと少しずつ理解できますし、相手の目線がわかるようになると、向こうも親しみを感じてくれるようになります。その土地に馴染む必要がある、というか。

平沢さん:おっしゃるとおり、最初のステップとして、私自身がその土地の方とちゃんと交流をし、話し合いを重ねていく必要があります。互いを知り交流を深めていき、そのうえで本気で10年間お付き合いしていく想いを共有できるか、ということを一緒に考えてから、やっと動き出すことができます。

小林:一度動き出すと、そこから先はスムーズに進むのでしょうか。

平沢さん:そうとも言い切れません。ただ、実際にイベントを開催して、たとえば都市部の方々との交流が始まると、地元を好きになってもらえることの嬉しさや、自分の暮らしている地域の良さにあらためて気づかされるという発見があります。色々なことを机上ではなく実体験として感じてもらえるんですね。そういう体験を経てビジョンを共有することで、来年も再来年も実施していこうという声がむしろ地域側から寄せられたり、現在の活動エリアの植栽が終わったら向こうの土地に植栽地を広げよう・・・など、積極的にご提案いただくことも多くなりました。

林:地域の方と協働を深めていくことが、森づくりの輪を広げていくことにつながっていくんですね。

平沢さん:はい。「Present Tree」は、都市と地域の方の交流を促進することで、森づくりを行っている地域を元気にしていくことも目的のひとつです。地域が賑わうことで、経済的にも活性化しますし、地域の人々の環境意識が深まることでまた森も潤うようになっていきます。ただ植えるだけではなく、地域の方々とともにそういった良い循環をつくっていける、息の長い活動にしていきたいです。

森から新たなストーリーが生まれ、地域へ還ってくる

小林:木で出来た製品で買うことはできるかもしれませんが、その木が育つ森を訪れたり、その地域と関わりを持つことって、なかなかできないですよね。素晴らしい活動だと思います。

平沢さん:ありがとうございます。でもたとえば、良品計画さんの木製家具などを購入された方が、私たちの活動に参加してくださることがあるかもしれません。その方々が実際に体験したことをきっかけに、購入した製品の材料となる木がどこから来たのか、どうしてその木が使われたのか、ひいては日本の森林事情についてじっくり考えていただければ嬉しいですね。

林:まずは知ること、そして次の行動に結び付けていくこと。どんどん展開していくことで、新しいものが生まれていきますよね。平沢さんが今後の「Present Tree」を取り巻く展開として期待されていることとしては、どのようなことを考えていますか。

平沢さん:今は、私たちが旗振り役となって地域の協働者の方々とともに「Present Tree」の活動を行っているのが現状なのですが、逆に地元の方々がこの活動を拠点にして、率先して地域おこしに繋がる何か新しい取り組みを進めてくださることが、ひとつの理想ですね。その際にももちろん、私たちでお手伝いができると嬉しいです。

小林:時間が経てば経つほど、植樹を行った森林が形になっていくわけですし、地域の方々の意識というのも大きく変わっていきますよね。さまざまなアクションが期待できそうです。

平沢さん:国内の活動が始まったのが2006年でしたので、実はもうすぐ国内で初めて、植樹を行ってから10年を迎える森が出てくるんです。木材にして売るということは前提としていませんが、たとえば大崎市では水木(ミズキ)の樹を植えていて、これはこけしの材料になります。そこで「Present Tree」の森から生まれたこけしがつくれたらいいな、と。まだまだ構想段階ですが、そういったことも考えています。

林:また新たなストーリーが生まれ、地域が盛り上がっていく。素敵な循環が続いていきますね。

平沢さん:はい。私たちはそもそも、環境問題を漠然とは知っているけども何をしたらいいかわからない方々に、堅苦しくなく気軽に取り組めるような企画を提供していくための団体です。「Present Tree」を基盤にして地域が盛り上がり、そしてまた森が潤っていくという好循環ができれば、それが多くの人が環境に対して一歩を踏み出したということでもあるんです。これからもこの好循環が続くよう、尽力していきたいと思います。

対談を終えて

小林:環境リレーションズ研究所さんは、目にはっきりと見えるご活動というよりも、人の心に小さなきっかけをつくるという、目に見えない分野を中心にしたご活動をされていると知りました。そういった分野において、何年、何十年先というところに焦点をあてて森づくりに取り組むということは、非常にパワーのいるお仕事だと思います。長年尽力を続け、多くの人の背中を押しているということが、とても素晴らしいことだと強く感じました。貴重なお話をありがとうございました。

林:ご活動の背景にあるストーリーや、協働される方々の巻き込み方などが非常に完成度が高く、私たちがこれから試行錯誤してつくらなければいけない取り組みの、ひとつの完成形を見させていただいたような心境です。森の元気さというのは、地域の元気さと比例しているように感じています。物理的に樹を植えることと、その土地に活動を生み出していくことの2つをうまく連携しながらやっていけるような活動が、私たちも今後できればと思います。その際に、ただのモノづくりだけで終わらずに、その後ろにあるストーリーという「コト」をきちんと伝えていくことが大切だということに気付かされ、とても勉強になりました。ありがとうございます。

※役職等は対談当時のものです

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