募金券でつくれる未来

社員との対談

第57回 ファザーリング・ジャパン×良品計画 「よい父親」ではなく、「笑っている父親」を増やす。 第57回 ファザーリング・ジャパン×良品計画「よい父親」ではなく、「笑っている父親」を増やす。

社会貢献活動を行う団体の活動を、良品計画の社員との対談を通してお知らせします。第57回は、父親の子育て支援や、家庭や地域における自立支援を行う、ファザーリング・ジャパンさんにお話をお聞きしました。

父親であることを楽しめる社会になるために、必要な変革とは

依然、日本において出生数は減少を続けており、少子化は深刻な社会課題となっています。数えきれないほど多くの要因が関わってくるなかで、重要なキーワードとして最近注目されているのが「父親支援」。父親たちが家庭や地域により積極的に参加することで、母親や子どものみならず、社会にも大きな変革をもたらします。「笑っている父親」を増やすことが、働き方の見直しや企業の意識改革、社会不安の解消、次世代の育成など、社会全体に大きな変革をもたらすと信じ、それを目的=ミッションとして掲げているのがファザーリング・ジャパン。これからの日本の子育てには、どのような変革が必要なのでしょうか。

プロフィール

ファザーリング・ジャパン

ファザーリング・ジャパンは、父親の子育て支援や、家庭や地域における自立支援を中心に活動を行うNPO法人です。パパの極意を学び、パパ友をつくれる「ファザーリング・スクール」や、女性活躍と男性の育児参画を推進する管理職を育成する「イクボスプロジェクト」など、さまざまな角度から子育てを支援しています。

ファザーリング・ジャパン

  • 安藤 哲也

    ファザーリング・ジャパン
    ファウンダー/代表理事

    1962年生。出版社、IT企業など9回の転職を経て、2006年に父親支援のNPO法人ファザーリング・ジャパンを設立。「笑っている父親を増やしたい」と講演や企業向けセミナー、絵本読み聞かせなどで全国を歩く。最近は、管理職養成事業の「イクボス」で企業・自治体での研修も多い。厚生労働省「イクメンプロジェクト推進チーム」顧問等も務める。著書に『パパの極意~仕事も育児も楽しむ生き方』(NHK出版)、『できるリーダーはなぜメールが短いのか』(青春出版社)など多数。3児の父親。

  • 高橋 保至

    良品計画
    総務人事担当 人事企画課

    2002年、良品計画へ入社。無印良品三軒茶屋へ配属となり、その後2店舗での勤務を経て、2007年に泉北パンジョの店長に着任。以降、2つの店舗でも店長を務め、2011年より生活雑貨部ファニチャー担当MDに着任。主に、収納用品関連の商品企画を担当。2016年5月より現職。主に採用、評価を担当する。5歳と1歳の娘の父。趣味は娘達と一緒に遊ぶこと。

  • 斉藤 拓也

    良品計画
    無印良品セレオ国分寺/ブロック店長

    2006年入社後2店舗を店舗スタッフとして勤務し、2008年に無印良品旭川西武に店長として着任、その後イオンモール新瑞橋(新店)、イオンモールむさし村山、ららテラス武蔵小杉(新店)を経験し、2015年より現職。地域で活動されている方と積極的に交流し、無印良品が地域のコミュニケーションの場として根付くための活動に力を入れる。趣味はアウトドア。最近は家族とのキャンプが楽しみのひとつ。三人の娘の父。

日本社会の根幹にある、性別による役割意識

ファザーリング・ジャパン主催の
パパスクールで子育ての喜びや悩みを語り合うパパたち

高橋:育児支援や、あるいは病児保育などを行うNPOについては耳にしたことがありますが、父親支援という分野で活動されているNPOはとても珍しいですよね。

安藤さん:「ファザーリング・ジャパン」は10年前にスタートしたNPOですが、父親支援という分野のNPOは、私たちが日本で初めてだったと思います。当時は私自身、サラリーマンをしていて、仕事と育児のバランスという部分で非常に悩んでいた時期でした。色々な工夫をした点をメソッド化することで、同じ悩みを抱えている父親たちに役立つのではないかと考えたことが、活動をスタートしたきっかけです。

斉藤:ワーク・ライフ・バランスや待機児童問題など、今の日本で子育てをしていると、さまざまな社会課題にぶつかることが多いです。原因として一番大きいものはどういったことが挙げられるのでしょうか。

安藤さん:性別による役割意識が根付いていることが社会課題の根幹にあります。たとえば育児休暇というのは、既にほとんどの企業で父親も取得可能なように制度が整っています。けれども、実際に育児休暇を取得する男性は非常に少ない。つまり、職場全体や自分自身の意識に、性別による役割意識が根付いてしまっているんです。近年、育児に参加する父親が増えてきていますが、世の中全体で見るとやはりまだ男性よりも女性に育児の負荷がかかってしまっています。

高橋:確かに自分自身、性別による役割意識が考え方に根付いてしまっていると感じることはありますね・・・。そのような意識が父親の育児参加に影響を与えてしまっているのは、日本特有の現象なのでしょうか。

安藤さん:そうとも言い切れませんね。たとえばカナダでは10~15年前ごろ、今の日本と同じように、性別による役割意識が少子高齢化に大きな影響を及ぼしていました。政府が危機感を感じて対策を行った結果、今ではカナダは少子化対策の先進国となっていて、ほとんどの企業が男性の出産・育児休暇を認め、取得率も上がっています。そういった変化が日本にも必要になってきていると思います。

斉藤:年々感じるのですが、日本の社会も少しずつ状況が変わってきていますよね。育児に参加しているお父さんが、珍しいものではなくなってきたように感じています。

安藤さん:おっしゃる通り、「イクメン」という言葉や概念が広がり、子育てに参加するお父さん方は今では珍しくなくなりつつあります。だからこそ考えなければいけないのが、「あらゆる父親が、仕事も育児も両立し、楽しんで生きていく」ということを誰もができる世の中には、まだ到底なっていないということです。育児に進んで参加している新世代のお父さん方を支援する取り組みや、ワーク・ライフ・バランスの問題に対してのアプローチを強めていく必要があると強く感じています。

「イクメン」の広がりにより生まれた新たな課題

高橋:私は毎朝子どもを保育園に送ってから出勤するのですが、同じように子どもを送り届けている父親が増えているように感じます。

安藤さん:保育園に子どもたちを送り届けるお父さん方はとても増えてきていますよね。私が最初の子どもを保育園に送っていた18年前は、保育園に子どもを送り届ける父親というのはとても珍しい状況だったんですよ。それがここ5~6年で、自分にできることを模索して育児に積極的なお父さん方が、本当に多くなってきています。

斉藤:私は特に第二子を妻が妊娠していたときに、家事に参加する意識が芽生えましたね。妊娠している妻を支えるためにも、第一子の世話や、家庭を取り巻く多くの雑事に積極的に参加すべきだと感じ、行動を起こしました。赴任先での出産だったため周りには知り合いが少なく、妻に孤独な思いをさせたくないという想いもあり、「残業を極力減らし、家庭での時間をしっかり確保しよう」といった意識が育っていきました。

安藤さん:環境が育てた、努力家のお父さんなんですね。素晴らしいことだと思います。ただ、最近では逆にそういった努力家のお父さん方に「イクメンブルース」という課題が出てきつつあります。家事に参加するお父さんが増えてきたことで、大きくなってきた課題ですね。

高橋:ブルースですか。

安藤さん:はい。働きながら育児に参加するというのは、やはり難しいんですよね。特に専業主婦の奥様を支えているご家庭では、収入面で支えなければいけないという責任も抱えながら、育児への参加もしなければいけないため、プレッシャーを感じているお父さん方が増えつつあるんです。

斉藤:なるほど・・・。プレッシャーをひとりで抱え込まなければいけないのは、凄まじい負担だと思います。そういったお父さん方には、どのような支援を行っているのですか。

安藤さん:ファザーリング・ジャパンでは全国各地で父親たちのコミュニティ「パパ友ネットワーク」による支援を行っています。育児は楽しいことですが、同時にとても大変で、たくさんのエネルギーを必要とします。そのうえ、自分の親や同僚に相談ができず、手探りで育児に向き合っているというお父さんも珍しくありません。だからこそ、同じように頑張っているパパ友に相談をして、課題の解決策やモチベーションの保ち方を一緒に考えられる場所を設けることが、とても大切です。