募金券でつくれる未来
社員との対談
第57回 ファザーリング・ジャパン×良品計画 「よい父親」ではなく、「笑っている父親」を増やす。
父親に向けた子育て学校から、子どもたちに向けた啓発活動まで
高橋:具体的な活動内容について聞かせてください。
安藤さん:まず代表的なものとして、「ファザーリングスクール」「パパスクール」など、父親を対象にした子育て学校を展開しています。子どもとの関わり方や家事への参加についての基礎的な知識はもちろん、実践的な技術や心構えなどについても教えます。一緒に過ごした方同士でパパ友が出来るのも大切なことですね。
斉藤:そういった場があると、不安を抱え込むことがかなり減りますよね。大切な場のように感じます。全国、どれぐらいの範囲でやっているのでしょうか。
安藤さん:全国100か所ほどでやっています。まだカバーしきれていない地域もあるわけですが、父親が抱えている悩みは地域が違えども、根っこの部分では一緒だと思いますので、各地のお父さん方に届くようにどんどん広げていきたいですね。
高橋:受講されている方というのは、みんな父親なのでしょうか。
安藤さん:父親を対象としたものが多いですが、まだ父親になっていない方もいらっしゃったりします。悩みを抱えたお父さんが来ることもあれば、これから子どもを持つうえで基礎を学びたいという前向きな姿勢の方もいらっしゃいます。さまざまな立場の人にとって、学ぶ場所というものが必要とされていることを感じますね。あとは学生に向けた出張授業というのも行っています。こちらは啓発の場という側面が大きいですね。
斉藤:面接などでお会いする新卒の方も、最近では具体的な仕事の内容というよりも、職場の雰囲気を気にされる方が増えたように感じています。それは休暇が制度として確立されていても、実際に取得できる雰囲気かどうかということにつながっています。女性は昔から気にされていましたが、男性にもその流れが広がってきています。
安藤さん:父親の育児参加が浸透した影響として、若い世代の男性たちは子育ても含めた具体的なライフプランを考える方々が増えてきていますよね。ただ、すべての学生がそういった価値観に触れているというわけでもありません。まだまだ「一人で稼がなければいけない」と考えている男子学生は多いです。
高橋:若いからといって、新時代的な価値観が全員に根付いているわけではないですよね。だからこそ、社会に出る前に新しい価値観を知る必要がある。
安藤さん:はい。急に世の中の価値観は変わりません。私たちの子ども世代ぐらいになると違うかもしれませんが、今はまだ過渡期です。だからこそ、これから社会に出る子どもたちが、その過渡期で自分に合った選択肢を選んでいくために、育児に父親が参加するというロールモデルもあるということを知り、考えてもらう場を設けています。
多様性を認め世の中を変える「イクボス」
高橋:ワーク・ライフ・バランスについての取り組みもされていらっしゃるんですよね。
安藤さん:ええ。父親の育児参加のみならず、子どもを育てる社会づくりにおいてワーク・ライフ・バランスの取れる働き方というのは大きな課題です。特に今やっているのが「イクボスプロジェクト」ですね。
斉藤:イクボス。どういったプロジェクトなのでしょうか。
安藤さん:「イクボス」というのは、職場でともに働く部下やスタッフのワーク・ライフ・バランスを考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司のことを指しています。そういった管理職の人間をどんどん増やしていこう、というプロジェクトです。
高橋:管理職レベルでそういった考え方が浸透すると、社会は大きく変わりますね。多様な働き方が認められることに繋がるとも思います。
安藤さん:ええ。私たちが目指しているイクボスというのは、「共働きで忙しいだろうから帰っていいよ」ではなく「子どものために早めに帰ってみるのはどうかな?」というように、新たな選択肢を提示してくれる上司のことを指します。子どもがいる人だけではなく、さまざまな立場の人が多様性を認め合ってフラットに働くことができる職場づくりをしていくのが、イクボスの仕事です。
斉藤:子どもがいる、いないに限らず、自分のために休みを取るというのが、日本では肯定的に受け取られにくい空気がありますからね。
安藤さん:日本ではやはり「休まずに働く」というのが評価されてきた時代が長かったですし、当時はそれで良かった部分もあったのだと思います。ただ、時代は刻一刻と変化しています。子育てにおいてそれは特に顕著で、働き方や家事の分担についての考え方を、今の時代に即した形に変えていくことで楽になる部分が多くあります。そういったことを多くの父親たちに知ってもらうためにも、私たちはセミナーやイクボスプロジェクトなどの、多くの啓発の場を持っています。
笑っている父親を増やし、社会を変革していく
高橋:ご活動を始められてちょうど10年とお聞きしました。10年間経って感じたことや、あらためて気づいたことなどありますか。
安藤さん:10年間やって一番大きな気付きだったのは、家庭というものが非常に多様だということですね。「父親」というイメージは割と多くの人が一律で持っているのですが、多様な家庭環境がある以上、支援の形も多様である必要があるんです。
斉藤:確かに、両親が共働きなのか否かや、職業によっても家庭環境は異なってきますし、子どもの性別や性格なども関係してきます。本当に千差万別ですよね。
安藤さん:「父親が育児に参加する」ということに対して肯定的な考え方というのは、広がりつつありますし、広がっていくであろうと感じています。ただ、多様な家庭に向けて子育て支援をしていくには、単純に父親に向けた啓発活動や講演をするだけでは、解決策として不十分です。もっと活動の範囲を広げていく必要があります。
高橋:それでは、今後はどんどん裾野を広げていくような形になっていくんですね。
安藤さん:はい。「イクボスプロジェクト」もそのひとつですし、他にも父親だけではなく母親を支援する「マザーリングプロジェクト」も始まりました。孫育てに参加する中高年男性を啓発する「イクジイプロジェクト」も始まっています。あと、今力を入れているのが、子どもの思春期に悩む親御さん向けのプログラムですね。
斉藤:思春期についてもサポートを行うんですね。さまざまな状況に即した支援が拡充されていくのは、自分も含め、お父さん方にとってとても力強いことだと思います。
安藤さん:子育ては「いつまで」という切れ目が明確にあるようなものではありません。だからこそ、長期的な視野で考えて必要な支援を続けていくことが、多くの人々の笑顔につながっていきます。これからも「笑っている父親」を増やし、多くの家庭に笑顔を増やし、そしてその先にある社会変革を実現していくために、何が必要なのか考えを巡らせ、導き出された答えに対してさまざまな角度から支援をしていきたいと思います。
対談を終えて
高橋:セミナーやスクールといったものの存在は知っていたのですが、いざ自分が参加するとなると、なかなか具体的な行動を起こせない部分がこれまでありました。今回安藤さんとお話しさせてもらったことで、そういったコミュニティに入っていくことの大切さを知ることができたので、今後は積極的に参加していきたいです。私自身の笑顔の源は、やはり妻の笑顔です。これからも笑顔の父親でいられるよう、妻に笑顔で過ごしてもらえるように一緒に頑張っていきたいと、強く思いました。
斉藤:ファザーリング・ジャパンさんのキャッチコピーを見て、「良い父親」と「笑っている父親」の違いというのが気になっていました。お話を聞いて、育児に対して肩肘張らずに、楽しみながら参加することがとても大切なのだと気づかされました。また、私にできる社会貢献は、育児に積極的に参加するだけではなく、「育児に参加する父親」がどういった価値観を持っていて、それが世の中を変えていくことにどうつながるのかを周りに伝えていくことだと感じましたので、今後は尽力していきたいです。
※役職等は対談当時のものです
ファザーリング・ジャパン
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ファザーリング・ジャパンは、2016年8月24日から2017年2月23日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
163人の方から合計10,470円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。