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社員との対談

第61回 日本民家再生協会×良品計画 民家と技術を次代に継承し、日本の住文化を守る。 第61回 日本民家再生協会×良品計画 民家と技術を次代に継承し、日本の住文化を守る。

社会貢献活動を行う団体の活動を、良品計画の社員との対談を通じてお届けします。第61回は「日本の民家を次代へ引き継ぐ」を理念に、伝統的な古民家の構法・技術を次代に伝えるとともに民家を通じた地域再生に取り組む日本民家再生協会さんにお話を伺いました。

日本の民家を現代に蘇らせ、次代に伝えるために

茅葺き屋根、平屋づくり、懐かしい畳の匂い・・・。日本に今も残る「民家」に心惹かれる方々は多いのではないでしょうか。事実、そうした民家のノスタルジーに魅了され、若い世代でも民家暮らしを選択する方々も増えてきていると言います。そのような需要がある一方、「住む人がいない」「維持が困難」などの理由で取り壊されたり、朽ちていったりする民家があるのも現状です。そんな民家の保存・継承を推進する日本民家再生協会さんの活動を通じて、日本の住文化について考えてみましょう。

プロフィール

日本民家再生協会

日本民家再生協会は「日本の民家を次代に引き継ぐ」をコンセプトに、日本の伝統的な民家再生の啓発・普及活動を行う全国的なネットワーク組織です。情報誌や会報の発行、古民家・再生民家見学会などの各種イベント、「民家の学校」をはじめとするセミナーの開催、「民家トラスト」、「民家バンク」、民家再生に関する相談などのさまざまな活動を通じて日本の住文化を未来の子どもたちに継承するとともに、循環型社会の実現を目指した取り組みを進めています。

日本民家再生協会

  • 石井 圭子

    日本民家再生協会
    常任理事

    大学卒業後、建築設計事務所勤務を経て1982年に一級建築士事務所を設立。主に病院・医院・福祉施設・住宅の設計を手掛け、女性の視点による建物と健康を考慮した設計活動を行なう。1989年から1992年まで米国フィラデルフィアに在住。海外から日本を見直す機会を得て、日本の住宅寿命の短さや暮らしの在り方に疑問を抱くとともに、循環型社会の必要性を実感。帰国後、日本民家再生協会の設立に参画し、事務局長、代表理事を務めた後に、現在常任理事として活動する。

  • 田澤 俊介

    良品計画
    販売部 北日本エリアマネージャー

    1998年入社、無印良品ベルシティ鈴鹿(現・イオンモール鈴鹿)に配属後、2000年に無印良品高崎ビブレで店長に着任。販売部にて新店や改装店、大型店のフロアマネージャーなど5店舗を経験した後、2008年にチャネル開発部に異動。その後、2011年より再び販売部へ。ライセンス店の担当を経験後、中京地区のエリアマネージャーを経て、2016年より現職。北海道から東北、栃木、甲信地方と国内ではもっとも広範囲を担当し、各地を駆け回る日々。

  • 青山 丈実

    良品計画
    MUJIHOUSE 住空間事業部 リノベーション担当

    2015年入社。MUJIHOUSEの個人顧客向けリノベーション事業であるMUJI INFILL0(インフィルゼロ)の立ち上げに携わる。温熱性能の高い一室空間を家具で仕切る、という間取りを提案。 また、UR都市機構との団地リノベーションプロジェクト「MUJI×UR」にも参加。ライフスタイルの多様化が進む今、古いものを上手に見直しながら、住む人に合わせて変えることができる自由な家づくりに取り組んでいる。二級建築士。

日本の文化としての民家

築100年の蔵を再生し、イベントや地域コミュニティのスペースに活用

田澤:日本民家再生協会さんは、1997年から日本の民家に着目して活動を行なっているとお聞きしました。どういったご活動をされているのか、お話しいただけますでしょうか。

石井さん:私たちは、日本の民家を次代に引き継ぐことを目的として、「民家の良さを学び広める」「民家を生かした地域再生」「民家を一棟でも多く残す」この3本柱を掲げて活動しています。具体的には、情報誌『民家』の発行をはじめ、イベントやセミナーの開催、民家を通じて地域再生を促進する活動などを行なっています。

青山:古民家カフェなどがブームになって、若い世代にも民家に興味を持つ方が増えていますが、日本民家再生協会さんは20年も前から民家を次代に引き継ぐ活動をしていらっしゃいますよね。

石井さん:90年代初頭のバブルの時に、土地や家屋の売買が盛んに行われました。その結果、日本の住文化の結晶である民家も多く取り壊され、このままでは日本の住文化そのものが失われてしまうと危機感を覚えました。住民が離れたことで解体される、放置され朽ちていく。それでは次代に民家の良さを伝えることができません。そのような状況を回避するために、1996年から活動の準備を始め、日本民家再生協会を立ち上げました。

田澤:ご活動を拝見すると、80~100年以上経ったいわゆる古民家が多いようですが、日本民家再生協会さんは「民家」とされていますよね。古民家と民家に違いがあるのでしょうか。

石井さん:一般的に古民家と呼ばれるものを対象にしていますが、それを当協会ではあえて民家と呼んでいます。古民家というと、ただ「古い民家」という印象を持たれてしまいがちですが、そうではなく、「地域性が豊かで次代に継承の必要がある日本の住文化としての家屋」という意味で、民家という言葉を使っています。

青山:ただ古い民家ということではなく、文化として民家を捉えているのですね。

石井さん:はい。当時は民家の存続に危機感を覚えて日本民家再生協会を発足させましたが、今では文化としての民家を通して、暮らしと伝統的な技術を知ってもらおうという「民家の学校」という活動も行っています。他には、民家提供者と譲り受け希望者の縁結びをする「民家バンク」や、危機的重要民家を福祉や教育、地域コミュニティーや都市農村交流などの新たな社会的利活用に生かす「民家トラスト」の活動も行なっています。人が住まないとあっという間に家は痛みます。それを未然に防いで日本の住文化を次代に引き継ぐことが、私たちの活動の要だと考えています。

民家を再生・利活用するために

青山:実際には、どのように民家を再生しているのでしょうか。昔の民家は大きいイメージがあります。再生や再利用と一口に言っても、大変な労力が掛かることかと思います。

石井さん:日本の民家は、簡単に解体ができません。民家を解体する時に"ほどく"という表現を使いますが、建物が組み上げられた順序とほぼ逆からおこないます。順序を間違うとほどくのが難しくなったり、ほぞ※が折れたりしてしまいます。例えると、パズルのような感覚です。きちんとほどけば、また別の場所で組み立て直し、再生することができます。

田澤:ほどく。初めて聞きました! ほどく技術や建築する技術も文化のひとつですね。新たに再生、再利用するとしてもそのまま使えるものなのでしょうか。

石井さん:移築する場合は、古いものと新しいものをミックスする手法も採用しています。古い民家をただ残すことは今の時代では難しいので、存続させるためにも、昔のものを生かしながら現代の技術を駆使して民家を再生させることに注力しています。

田澤:新しいものを取り入れることが、逆に古いものを存続させることになるのですね。

石井さん:最初に申し上げましたが、活動のひとつに、「民家バンク」というものがあります。これは、移築再生が前提の民家を譲り受けたい方に情報提供する活動です。まずご相談いただいた後、下見に行きます。年代を経ているものですから、中には移築に適さない民家もありますが、その場合は解体に使える材を選別して古材として再利用することもあります。別の民家に使用したり、古材屋さんにお渡しして、また新たに使ってもらえるようにしたりしています。

青山:それは画期的な取り組みですね。いざ、民家を手放したい、住みたいと思っても、一般の人はどうすればいいか分からないと思います。そのようなマッチングの場があるとありがたいですね。

田澤:古材としても再利用するのですね。確かに、古い木材には新しいものとは別の魅力がありますよね。弊社でも古材を利用した店舗環境を導入していますが、若い方々を中心に人気があります。木がある暮らしは落ち着きますよね。手入れが少し大変ですが、その分愛着が湧くのだと思います。

石井さん:また、移築再生だけでなく現地再生も見直されて、数も増えてきています。最近では、IターンやUターンも話題になっていますし、山ガールなどもブームになりましたが、そのようなナチュラル思考の若い方々にも興味を持っていただいています。そういったこともあり、田舎暮らしを検討する方も増えてきて需要が高まっています。もちろん重要なのは、民家そのものをブームにするのではなく、民家を愛し、残していきたいと思う方が一人でも増えることだと考えています。ブームを入口にして、民家の良さを認識していただき、次代につなげていただければ幸いです。

※ほぞ:木材を組み合わせるために、木材に施した凸型の加工のこと。これを別の木材にあけた穴にはめ込む。