募金券でつくれる未来
社員との対談
第61回 日本民家再生協会×良品計画 民家と技術を次代に継承し、日本の住文化を守る。
全国に広がるネットワーク
青山:日本民家再生協会さんのご活動に賛同される方も、現在は全国的なネットワークにまで発展していると聞きます。具体的にどのような訴求活動をなさったのでしょうか。ご苦労もあったと思います。
石井さん:実は団体準備期間の時に、徐々に全国各地で民家再生の声が上がり始めていました。ならばその声をつなげられるような仕組みを活動に取り入れようと、最初から考えてはいました。ただ、大きなきっかけとなったのは、私たちの活動が新聞などのメディアに紹介されたことだと思います。1,000人超の方々から団体についての賛同と問い合わせがありました。やはり皆さんも同じような想いがあったようです。このままでは日本の民家が失われてしまうと考えていらっしゃる方が多いのだと改めて感じました。
田澤:民家は全国各地にあるものですからね。以前地方を担当していた頃の話ですが、移動のために乗ったローカル線から家々を見ると、土地によって全く異なったつくりをしていて、それが面白くてよく眺めていました。
石井さん:各地で風土や習わし、さらに材料となる土や木も異なります。それによって民家のつくりや状態も異なってくるので、全国各地の会員の皆さんとの情報共有は欠かせません。「民家フォーラム」でも、自分の地域の民家について皆さん愛着と誇りがあるのでしょう、準備段階から熱意を持って取り組み、当日もとても積極的にお話してくださいます。
青山:違う地域の民家のお話を聞けるのは、全国ネットワークならではですね。
石井さん:フォーラム以外では、情報誌『民家』の発行をしています。『民家』では、民家に関する初歩的な知識、民家を取り巻く動き、民家再生の事例・体験記、民家バンク情報、民家活用・まちづくりの事例など、さまざまな情報を提供しています。
民家だけじゃない、人のつながりも再生する
青山:先ほどはフォーラムのお話をしていただきましたが、実際に再生事例を一般の方が聞けるイベントもあるのですか?
石井さん:はい。民家再生現場見学会も定期的に開催しています。一般の方々を対象に、再生された民家を会場として民家の魅力やリアルな裏話などもお伝えしています。他に「民家の学校」というイベントもあります。来年18期を迎えるプログラムで、昔の生活や、大工の技、森林作業などを体験していただきます。夏には、長野県の電気もガスも通っていない土地の民家に泊まり、釜戸でご飯を炊き、いろりに火を灯し、往時の生活を通しながら民家の魅力をお伝えしています。参加される方も一般のご家族、建築を学ばれている学生さん、ゼネコン勤務の方などさまざまで、あらゆる年代の方々の交流の場にもなっています。
田澤:民家の学校・・・お子さんはもちろん、大人もワクワクしそうです。気軽に民家を体験できる場所を提供いただけるのは、とてもありがたいことだと思います。とくに都心に住んでいるとなかなか民家を知る機会、ましてや、違う世代の方と触れ合う機会も少ないのが現実です。体験を通じて、民家をキーワードに人と人がつながっていくのは素敵なことですよね。
石井さん:まずは民家を知らない皆さんに体験の機会を提供することで、民家の魅力を知っていただく。それが日本の住文化である民家を次代に引き継ぐ一歩だと考えています。「人と人のつながり」という点では、「民家トラスト」という活動も今後推進していきたい分野です。これも縁結びの一環で、民家所有者の信託意志のもとに民家を登録、その情報を公開してスポンサーや管理運営者を募ります。行きどころのない民家を福祉や教育、地域コミュニティーや都市農村交流など、社会の場として新たに利活用することにより、民家を次世代に引き継ぐとともに、地域再生を促進する試みです。
青山:弊社には「MUJI×UR団地リノベーション」というプロジェクトがあります。古くなった団地をリノベーションして、愛着を持って長く住んでいただくことで、団地再生を果たし、新しい地域コミュニティーのかたちをつくることを目指すというプロジェクトなのですが、日本民家再生協会さんのご活動と共通する点があるような気がしてとても共感できます。
石井さん:それは素敵なプロジェクトですね。古いものを新しく活用する、という意味では、「民家トラスト」という活動から立ち上がった、「民家トラスト部会」というものがあります。
田澤:それは一体どのようなものなのですか?
石井さん:「民家トラスト部会」は、所有している民家を何とかしたい、という声にお応えして相談にのり、利用方法の企画から実現までに対応する専門部会です。また、当協会にはいくつかの部会があり、定期的に会議を開いて、イベントやセミナーなどの企画について話し合っています。そのひとつが「文化企画部会」です。民家の美を絵や写真や模型などで表現して発表する「日本民家の美術展」、スケッチハイク・写真教室などの体験型講座、民家を再生したい人を対象とした「建て主による建て主のための民家再生」や、伝統的技術を持つ職人にスポットをあてた見学会などを企画運営しています。加えて、「民家活用部会」。こちらでは、民家活用の現場を見学・体験したり、民家を活用している先輩オーナーの方々の話をヒアリングして、民家を活用するリアルを学んでいただきます。そのほか、民家が残る地域の人々との交流を通して民家を生かしたまちづくり、むらづくりを提案する「民家まちづくり部会」、日本の伝統技術について調査研究し、継承に努める「民家再生技術部会」などがあります。民家を通じて地域の方々の絆を結びつける様々なプログラムも用意しています。
青山:イベントを企画することで、民家を通じて地域再生や人と人とのつながりにも貢献しているのですね。
石井さん:民家再生を含め民家に興味のある方々を点ではなく線や面でつないでいくことこそが、私たちの役割です。じっくりと、着実に、民家とそこに用いられた類希なる建築技術を次代につなぐため、コミュニティーの拡大を図っていきます。
活動20年目! さらなる飛躍に向けて
田澤:ご活動をスタートされてから、今年で20年を迎えると伺いました。ご活動を継続されてきた中で、社会に与えた影響や変化は何か感じられていますか?
石井さん:古民家ブームもありますが、ご年配の方も含め、若い方々にも民家の魅力を認識していただけるようになったことでしょうか。従来、民家というと、お年寄りが住んでいる、というイメージがありました。それが最近は払拭されつつあるような気がします。また、古い民家を再生することで、古くからの文化と現代の文化をミックスさせた新しい文化をつくることもできることを提案しやすくなったと考えています。
青山:「MUJI×UR団地リノベーション」もそうです! 特に若い世代は、あえて仕切りをつくらず開放的な空間でお子さんを育てたい、そんな考え方の方が増えていらっしゃいます。そこで部屋に仕切りのない、常に家族の顔が見える新しい住まいを提案しています。
田澤:今後の活動はどのように展開しようとお考えでしょうか?
石井さん:民家の魅力が見直されているとはいえ、住み方やメンテナンス法が分からない方もまだまだいらっしゃるためため、行政と連携してそうした方のサポートをしていきたいです。また、2020年に開催されるオリンピックに向けて、海外のゲストの方にも民家を利用したカフェや宿泊施設を周知できる、民家ポータルサイトの立ち上げを検討しています。加えて、1人でも多くの方に民家を体験していただける機会を提供し、その魅力を伝えることで次代に民家を継承していきたいですね。
対談を終えて
田澤:住文化。私自身、北日本のエリアマネジャーとしてさまざまな地方をまわっていますが、車窓からの景色、出合うお店など、すべてがその地域ならではの文化につながっているのだな、と改めて考えさせられました。無印良品の各店舗の店長にもそうした意識を浸透させることで、地域の方々とのコミュニケーションをさらに深め、弊社の商品をお客さまに愛着を持っていただけるようにしていきたいと思います。民家と同様に、お客さまにも地域ごとに文化や特色がある。私たちの商品の良さを知っていただくためには、まずそこに住む地域の方々や文化を理解することが大切なのですね。
青山:「MUJI×UR団地リノベーション」に関わっていて、若い世代でも古材や団地を見直す方が増えていることを目の当たりにしているので、民家再生についてもとても共感できました。築100年以上の建造物を再生することができるのか、と考えると不安や疑問もありますが、日本民家再生協会さんのご活動を知って、現代に存続していけるということを改めて知ることができました。民家と団地、相違はありますが、古き良きものを次代に残す、というスピリットは共通していると思います。本当に勉強になりました! ありがとうございました。
※役職等は対談当時のものです
日本民家再生協会
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日本民家再生協会は、2017年2月24日から8月24日の期間、
無印良品ネットストア「募金券」で募金を実施し、
103人の方から合計39,110円の寄付を集めることができました。
ご協力ありがとうございました。